建設業の36協定|中小も守れる残業上限と特別条項の実務

「現場が忙しくて、残業時間なんて数えてる余裕がない…」 そんなお声を、建設業の経営者様から本当によくお聞きします。
結論から申し上げますと、建設業の36協定は2024年4月を境に、「書類としての協定」から「現場の働き方を描く地図」へと役割が大きく変わりました。原則として月45時間・年360時間、特別条項を結んでも年720時間・単月100時間未満・2〜6か月平均80時間以内という上限が、建設業にもそのまま適用されています。使う様式も、災害復旧の有無と特別条項の有無で4種類を使い分ける形に整理されました。
本記事では、建設業の36協定について、2024年問題で何が変わったのか・原則と特別条項の上限・4つの様式の使い分け・結ばなかった場合のリスク・中小建設業で押さえたい5つの実務ポイント・作り方の5ステップ・「できません」で終わらせない相談ケースまで、現場の目線でお話しします。読み終えていただく頃には、ご自身の会社の36協定を「どこから手をつけるか」のイメージが掴めるはずです。
| 区分 | 原則の上限(月/年) | 特別条項の上限 | 出典 |
|---|---|---|---|
| 建設業(通常事業・2024年4月〜) | 月45時間/年360時間 | 年720時間・単月100時間未満・2〜6か月平均80時間以内 | 労働基準法第36条/第139条 |
| 災害復旧・復興の事業 | 月45時間/年360時間 | 単月100時間未満・2〜6か月平均80時間以内の規制は適用除外 | 労働基準法第139条第2項 |
| 違反時の罰則 | — | 6か月以下の懲役または30万円以下の罰金 | 労働基準法第119条 |
INDEX≡目次
- 1建設業の36協定とは|2024年問題で何が変わったのか
- ►36協定の基本|労働基準法第36条が定める「時間外・休日労働の労使協定」
- ►建設業にも2024年4月から上限規制が適用(労働基準法第139条)
- ►「協定を結んでいれば青天井」ではない|法定上限の存在
- 2建設業の残業上限|月45時間・年360時間と特別条項の中身
- ►原則の上限|月45時間・年360時間(厚生労働省「時間外労働の上限規制 わかりやすい解説」)
- ►特別条項の上限|年720時間・月100時間未満・2〜6か月平均80時間以内
- ►災害復旧・復興事業の除外|労働基準法第139条第2項
- ►健康確保措置|特別条項を結ぶなら必ずセットで
- 3建設業の36協定の様式|9号の3の2と9号の4、どちらを使う?
- ►通常の建設事業で特別条項なし|様式第9号
- ►通常の建設事業で特別条項あり|様式第9号の2
- ►災害復旧・復興の事業で特別条項なし|様式第9号の3の2
- ►災害復旧・復興の事業で特別条項あり|様式第9号の4
- ►様式選定で迷ったときの考え方|「実際に何をしている会社か」で決める
- 436協定を結ばずに残業させるとどうなる?|罰則と実務リスク
- ►直接の罰則|労働基準法第119条「6か月以下の懲役または30万円以下の罰金」
- ►経営に効くリスク|公共工事の入札、CCUS、取引先コンプライアンス審査
- ►労災発生時の責任|長時間労働と労災認定の関係
- ►「忙しいから違反は仕方ない」で終わらせない|代替案の考え方
- 5中小建設業・一人親方が押さえておきたい5つの実務ポイント
- ►①労働者ゼロの一人親方は原則不要|ただし「人を一人でも雇った日」が起点
- ►②外国人技能実習生・特定技能も対象|在留資格と労基法は別物
- ►③直行直帰・現場移動時間の扱い|どこからが労働時間か
- ►④下請け・応援現場での残業の数え方|「使用者」はだれか
- ►⑤繁忙期の特別条項|建設業で起きがちな「月100時間問題」
- 6建設業の36協定の作り方|一緒に進める5ステップ
- ►ステップ1|事業場の単位と「過半数代表者」を決める
- ►ステップ2|直近1年の残業実績を棚卸しする
- ►ステップ3|現場ごとに「ピーク月」と「通常月」を分けて限度時間を設計する
- ►ステップ4|特別条項の「臨時的な特別の事情」を具体的に書く
- ►ステップ5|労働基準監督署へ届出・現場への周知・翌年の見直し
- 7「できません」で終わらせない|建設業のよくある相談ケース
- ►ケース1|「公共工事の工期がきつく、年720時間を超えそう」
- ►ケース2|「災害復旧の応援に出すが、災害時除外の様式でよいのか」
- ►ケース3|「一人親方だが、繁忙期だけ人を雇っている」
- 8まとめ|建設業の36協定は「書く」より「使う」へ
- ►①「書く書類」から「現場の働き方を描く地図」へ
- ►②特別条項は「保険」であって「標準」ではない
- ►③迷ったら、一人で抱え込まず伴走者と一緒に
- 9よくあるご質問(FAQ)
- ►Q1. 建設業は2024年4月から残業の上限規制が適用されたと聞きました。それ以前の36協定はそのまま使えますか?
- ►Q2. 一人親方で従業員はいません。それでも36協定の届出は必要ですか?
- ►Q3. 災害復旧・復興の現場に応援で入ることが多いのですが、どの様式を使えばよいのでしょうか?
- ►Q4. 工期の関係で、どうしても特別条項の月100時間ギリギリまで働いてもらう月が出そうです。問題ないでしょうか?
- ►Q5. 36協定を結ばずに残業させた場合、具体的にどんな罰則がありますか?
- ►Q6. どのタイミングで社労士に相談するのがおすすめですか?
建設業の36協定とは|2024年問題で何が変わったのか
建設業の36協定は、「時間外労働と休日労働をさせるために、労使で結んで労働基準監督署へ届け出る協定」のことです。2024年4月以降、建設業にも一般の業種と同じ時間外労働の上限規制が適用され、「協定さえ出せばいくらでも残業できる」仕組みは完全に過去のものになりました。
ここが建設業の経営者様が最もよく驚かれるポイントです。「うちの業界は昔から別枠だから」というご認識は、実務の現場では通用しなくなっています。
36協定の基本|労働基準法第36条が定める「時間外・休日労働の労使協定」
そもそも36協定とは、労働基準法第36条に根拠を置く労使協定のことです。例えば1日8時間・週40時間を超えて働いてもらう場合や、法定休日に出てもらう場合には、この協定を労使で結んで、所轄の労働基準監督署長に届け出なければなりません。
このルール自体は昔から変わっていません。協定なしで時間外労働をさせることは、業種に関係なくそもそも違法です。弥生公式チャンネルの社労士解説でも、@yayoi も「36協定がないのに時間外労働や休日労働をさせると違法になる」と繰り返し注意喚起しています。私たちKT社労士事務所でも、新規にご相談いただく建設業の経営者様の約3割は「協定が切れたまま」「そもそも結んでいない」状態からスタートします。
建設業にも2024年4月から上限規制が適用(労働基準法第139条)
これまで建設業は、残業上限規制の適用を5年間猶予されていました。2019年4月の労基法改正時に設けられた経過措置ですが、その猶予が終わり、2024年4月1日以降は建設業にも労働基準法第139条の規定で原則の上限規制が適用されています。
ここで押さえておきたいのは、「2024年4月以降に始まる協定期間」から新ルールが適用される、という点です。例えば2024年2月に結んだ1年間の協定であっても、同年4月以降の期間は新上限で運用する必要があります。
「協定を結んでいれば青天井」ではない|法定上限の存在
「36協定を出せば残業は青天井」と誤解されている建設業の経営者様に、現場でよくお会いします。私自身、まだ社労士になりたての頃、ベテランの職人さんから「協定さえあれば問題ないんだろ」と言われてうまく返せなかった記憶があります。社会保険労務士タカヤマ氏の動画でも、@syarousitakayama が「36協定出せば青天井に残業させられるのか?」というタイトルでまさに同じ誤解を取り上げています。
協定締結はあくまで「法律違反にしないための前提」であり、その上に「法定上限」が被さる二層構造になっています。この二層構造を社員にもきちんとお伝えすることが、トラブル予防の第一歩です。
出典:労働基準法第36条・第119条・第139条/厚生労働省「時間外労働の上限規制 わかりやすい解説」
建設業の残業上限|月45時間・年360時間と特別条項の中身
建設業で押さえておきたい上限は3層あります。原則の月45時間・年360時間、特別条項を結んだときの年720時間・単月100時間未満・2〜6か月平均80時間以内、そして災害復旧・復興の事業における例外です。どこまでなら「協定の設計で許される」のか、順に見ていきます。
まず結論として、建設業の残業上限は一般業種とまったく同じ水準にそろえられました。「建設業だから特別」という緩和は、災害復旧の限定された枠を除いて事実上なくなっています。
原則の上限|月45時間・年360時間(厚生労働省「時間外労働の上限規制 わかりやすい解説」)
原則の上限は、月45時間・年360時間です。これは厚生労働省のパンフレット「時間外労働の上限規制 わかりやすい解説」でも繰り返し示されている基本数字です。1日の所定労働時間を8時間とすると、月に平日22日として「月あたり約2時間/日」の残業までが原則枠と考えると、感覚的に掴みやすくなります。
特別条項の上限|年720時間・月100時間未満・2〜6か月平均80時間以内
繁忙期などで原則の上限を超える見込みがある場合は、特別条項付きの協定を結ぶことで、年720時間までの時間外労働が可能になります。ただし、同時に満たすべき条件が3つあります。1つ目が年720時間以内、2つ目が時間外+休日労働で単月100時間未満、3つ目が同じく2〜6か月平均で80時間以内です。
社労士松本みつはる氏も、@matsumoto-sr の「建設業の2024年問題」解説動画でこの3条件を強調しています。私たちの実感としても、建設業で起こりやすいトラブルは「年720時間はクリアできているのに、単月100時間や複数月平均80時間でひっかかる」パターンです。
災害復旧・復興事業の除外|労働基準法第139条第2項
労働基準法第139条第2項は、「災害時における復旧及び復興の事業」については、単月100時間未満・2〜6か月平均80時間以内の規制を適用しないと定めています。災害復旧・復興の現場に実際に入っている期間については、原則の月45時間・年360時間、年720時間という枠組みは残しつつ、月単位の縛りが外れる形です。
ここで注意したいのは、「災害が起きた地域の建設業=全部除外」ではないという点です。あくまで「災害復旧・復興の事業」として入っている工事が対象です。平時の新築工事を担当している作業員まで、この除外を適用することはできません。
健康確保措置|特別条項を結ぶなら必ずセットで
特別条項を結んで原則上限を超える働き方をさせる場合は、健康確保措置を協定書と届出書に明記する必要があります。例えば医師の面接指導、代休付与、年休の取得促進、心とからだの健康相談窓口の設置などから選んで記載します。
ここは「書けばいい」ではなく、実際に機能させることが大切です。小さな変化を見逃さないことが、大きなトラブルの予防につながります。CA時代に鍛えられた「相手の表情や空気の変化を読む」姿勢を、現場監督さんの朝礼にも持ち込んでいただくイメージです。
建設業の36協定の様式|9号の3の2と9号の4、どちらを使う?
建設業の36協定で迷いがちなのが「どの様式を使うか」です。使う様式は「災害復旧・復興の事業かどうか」×「特別条項を結ぶかどうか」の2軸で決まり、4つの選択肢があります。平時の工事中心の中小建設業であれば、ほとんどのケースで様式第9号または第9号の2に落ち着きます。
通常の建設事業で特別条項なし|様式第9号
一般的な建設工事を手がけ、残業も原則上限内でおさまる見込みの場合は、様式第9号を使います。これは建設業に限らず、多くの業種で使われるベーシックな様式です。「うちは月45時間を超えることはまずない」という企業様は、まずこの様式で届け出て、超えそうになったら特別条項付きに切り替える、という進め方が無理のない運用です。
通常の建設事業で特別条項あり|様式第9号の2
繁忙期などに原則上限を超える可能性があり、特別条項を結ぶ場合は、様式第9号の2を使います。鬼滅の社老子チャンネル・@onigosi-shaloshi の建設事業向け解説動画でも、「災害復旧・復興を含まない特別条項あり」のケースはこの第9号の2が標準と整理されています。中小建設業の多くはここに該当します。
災害復旧・復興の事業で特別条項なし|様式第9号の3の2
常態的に災害復旧・復興の事業を手がける企業様で、特別条項を結ばない場合は、様式第9号の3の2を使います。あまり馴染みのない様式名ですが、2024年4月の施行とあわせて建設業向けに新設された区分です。被災地のインフラ復旧を主な事業にしている企業様などで活用されています。
災害復旧・復興の事業で特別条項あり|様式第9号の4
同じく災害復旧・復興の事業で、繁忙期に特別条項も結ぶ場合は、様式第9号の4を使います。この様式を使うと、災害復旧・復興の事業に該当する期間については単月100時間未満・2〜6か月平均80時間以内の規制の適用が除外される点が、他の様式と大きく違います。縄本労働衛生コンサルタント・社会保険労務士事務所の@nawamoto-sr も、建設業36協定の作成方法動画でこの区分の重要性を強調しています。
様式選定で迷ったときの考え方|「実際に何をしている会社か」で決める
様式選定で経営者様が迷われるのは、「災害復旧の応援にたまに行くけど、本業は新築」というケースです。この場合は、本業の実態に合わせて様式第9号または第9号の2を選び、災害応援時の扱いは特別条項の「臨時的な特別の事情」の中で設計するのが現実的です。
迷ったら一人で抱え込まず、一度ご相談いただくのが安心です。社労士は、「書類としてどれを選ぶか」ではなく「御社の事業実態をどう映すか」の観点でご一緒します。
なし
あり
36協定を結ばずに残業させるとどうなる?|罰則と実務リスク
36協定を結ばずに時間外労働や休日労働をさせた場合、労働基準法第36条違反となり、使用者に対して6か月以下の懲役または30万円以下の罰金が科される可能性があります(労働基準法第119条)。罰則の金額だけ見ると「意外と少ない」と感じる経営者様もいらっしゃいますが、本当に経営に効いてくるのはここから先の間接ダメージです。
直接の罰則|労働基準法第119条「6か月以下の懲役または30万円以下の罰金」
直接の罰則は、労働基準法第119条に基づく「6か月以下の懲役または30万円以下の罰金」です。これは使用者(=経営者または管理監督者)に科される刑事罰で、法人であれば両罰規定により会社と経営者の双方が対象となります。
経営に効くリスク|公共工事の入札、CCUS、取引先コンプライアンス審査
実務でより怖いのは、信用に関わるリスクです。例えば公共工事の入札では、労働関係法令違反による指名停止や総合評価での減点が各発注機関で定められています。建設キャリアアップシステム(CCUS)の運用でも、違反企業への評価は厳しくなる方向です。元請の大手ゼネコンから「下請け選定時のコンプライアンス審査」を求められるケースも、ここ数年で確実に増えています。
労災発生時の責任|長時間労働と労災認定の関係
長時間労働は、脳・心臓疾患や精神障害の労災認定の重要な判断材料となります。発症前の時間外労働が複数月平均で80時間を超えていた場合は、業務との関連性が強いと判断されやすくなります。労災が認定されると、企業の安全配慮義務違反を問う損害賠償請求に発展することもあり、ここは「罰金30万円」とは桁違いのリスクです。
「忙しいから違反は仕方ない」で終わらせない|代替案の考え方
「現場が忙しいから、違反は仕方ないよね」というお気持ちは、本当によく分かります。ただ、ここで「仕方ない」で終わらせず、「できません、ただし別のアプローチならできる」という流れに切り替えるのがKT社労士事務所の基本姿勢です。
直接そのままの形で全員の残業を青天井にすることは、法律上難しい部分があります。ただし、工期の組み替え・応援現場の割り当てルールの見直し・外国人材の活用・業務の棚卸しによるムダ時間の削減など、残業そのものを減らすアプローチならいくつもあります。どれが御社に合うかを、現場感覚と一緒に設計していくのが私たちの役割です。
中小建設業・一人親方が押さえておきたい5つの実務ポイント
ここからは、従業員10人以下の中小建設業・一人親方の皆さまが実際につまずきやすい論点を、5つに絞ってお話しします。制度を「あなたの会社の形」に合わせて翻訳するイメージで読み進めてください。
①労働者ゼロの一人親方は原則不要|ただし「人を一人でも雇った日」が起点
労働基準法上の「労働者」を一人も雇っていない期間は、36協定の届出は原則不要です。一人親方として自分一人で現場に入る分には、そもそも労基法の適用がありません。
ただし、繁忙期だけアルバイトを雇った、お子さんの友人を日雇いで現場に入れた、といった瞬間から「使用者」になり、36協定の対象になります。@taira-yuta も建設業事業承継の動画で「人を雇った途端にルールが切り替わる」ことに触れています。私たちKT社労士事務所でも、「来月から人を雇います」というタイミングでご相談をいただくケースが一番スムーズです。
②外国人技能実習生・特定技能も対象|在留資格と労基法は別物
外国人の技能実習生・特定技能・育成就労などで働く方も、労働基準法上は日本人労働者と同じ「労働者」として扱われます。在留資格のルールとは別建てで、36協定の対象に含まれます。
「技能実習生は実習だから労働じゃない」というお話を伺うことがありますが、実務上は雇用契約を結んで給与を払っている以上、残業時間の管理も必要です。外国人雇用を検討中の建設業の皆さまには、採用前の段階で36協定の設計を一緒に見直すことをおすすめします。
③直行直帰・現場移動時間の扱い|どこからが労働時間か
建設業で判断が難しいのが、通勤・現場移動の時間です。自宅から直接現場に向かう「直行直帰」の時間は、原則として労働時間になりません。一方、会社や資材置き場に一度集合してから現場に向かう場合、集合時点から労働時間として扱うのが一般的です。
さらに、現場Aから現場Bへの移動は、業務の一環として指示している以上、労働時間に含めるのが原則です。この「どこからが労働時間か」を社内で明文化しておくことが、36協定の時間管理の第一歩になります。
④下請け・応援現場での残業の数え方|「使用者」はだれか
建設業では、「元請の指示でうちの職人が応援現場に入って残業した」というケースがよく発生します。このときの「使用者」は、応援先ではなく、職人さんと雇用契約を結んでいる自社です。残業時間のカウントも、自社の36協定の枠内で管理する必要があります。
元請から「もう1時間だけお願い」と言われた場合も、それをそのまま飲むのではなく、自社の時間外労働の残量を確認してから返事をする、という運用を定着させておくと安心です。
⑤繁忙期の特別条項|建設業で起きがちな「月100時間問題」
建設業の特別条項でもっとも起きやすい違反が、「年720時間はクリアしているのに、単月で100時間を超えてしまった」というパターンです。年度末や災害直後、工期短縮の案件が重なった月に発生しやすい傾向があります。
対策としては、特別条項の対象月(年6回まで)を工期カレンダーと重ねて事前に設計しておく、ピーク月は意図的に他部署へ応援を回す、休日労働の時間も合算されることを現場監督に周知する、などが挙げられます。これらは「書く」より「使う」の視点が大切な領域です。
建設業の36協定の作り方|一緒に進める5ステップ
初めて36協定を結ぶ建設業の経営者様と、私たちが実際に進めている5ステップをそのままお見せします。「書類を書く仕事」ではなく、「現場の働き方を見直す対話」として進めるのがコツです。
ステップ1|事業場の単位と「過半数代表者」を決める
まず、どの単位で36協定を結ぶかを決めます。基本は「事業場(本社・支店・現場事務所など)」ごとです。常時10人未満の小さな建設業であれば、本社1つで足りるケースが多くなっています。
次に労働者側の協定当事者を決めます。労働組合がなければ、労働者の過半数を代表する者を選出します。社労士ゆーちゅーばYOU氏も、@sharoushi-you の「36協定の実際の書き方入門」で「ここは選出手続きを民主的にしないと協定そのものが無効になる」と注意喚起しています。
ステップ2|直近1年の残業実績を棚卸しする
次に、直近1年の残業実績を棚卸しします。タイムカード・出面表・現場日報など、どんな形でも構いません。「ピーク月は何月か」「平均してどの程度の残業が出ているか」「特に長い個人がいるか」をざっくり把握するだけでも、設計の精度が変わります。
ここで数字を見ると、経営者様自身が「意外とこの時期だけなんだ」と気づかれることが多くあります。制度を使うより先に、現場の景色が見えてくる工程です。
ステップ3|現場ごとに「ピーク月」と「通常月」を分けて限度時間を設計する
実績を踏まえて、現場ごとに「ピーク月」と「通常月」を分けて限度時間を設計します。年間を通して平準化できるのが理想ですが、建設業は季節性があり難しい業種です。だからこそ、どの月をピークにするかを「選ぶ」設計が有効です。
同時に、ピーク月に偏った負担が特定の個人に集中していないかもここでチェックします。@nakamura-sr の労基法解説でも、「個人単位でのバラツキを均す視点」が繰り返し強調されています。
ステップ4|特別条項の「臨時的な特別の事情」を具体的に書く
特別条項を結ぶ場合は、「臨時的な特別の事情」の記載が必要です。ここが抽象的だと、所轄の労働基準監督署から修正指導を受けることがあります。
NGになりやすいのは、「業務の都合」「繁忙期対応」といった曖昧な書き方です。@sharoushi-cloud も特別条項解説動画で「具体的なトリガーを書く」ことの重要性を指摘しています。例えば「大規模災害発生時の応急復旧対応」「公共工事の年度末工期短縮に伴う最終検査対応」「突発的な資材納入遅延による工期立て直し」など、建設業の実務に即した具体的な事情を記載するのがおすすめです。
ステップ5|労働基準監督署へ届出・現場への周知・翌年の見直し
最後に、所轄の労働基準監督署に協定を届け出ます。届出は電子申請(e-Gov)も使えるようになり、だいぶ身近になってきました。
届け出て終わりではなく、「現場監督への周知」「現場事務所への掲示」「翌年の見直し」まで含めてワンセットです。協定書は作っただけでは機能しません。使ってはじめて価値が出ます。私たちは年に一度、ご契約先の建設業の皆さまと「協定の使い心地」を振り返るミーティングを設けています。
「できません」で終わらせない|建設業のよくある相談ケース
ここからは、実際に建設業の皆さまからよくいただくご相談を、「できません/だからこそ、こうならできます」の形で3つご紹介します。細やかに寄り添う視点で、代替案までご覧ください。
ケース1|「公共工事の工期がきつく、年720時間を超えそう」
公共工事の工期がきつく、特定の社員の時間外労働が年720時間を超えそうだというご相談を、よくいただきます。
まず、特別条項を結んでいても年720時間を超える働かせ方は、法律上そのままの形では難しい部分があります。ここで終わらせず、取れる打ち手はいくつもあります。
工期そのものに関わる話であれば、発注者との「適正な工期設定」の協議を行政が後押ししている時期です。建設業法の改正と「工期に関する基準」の改訂で、著しく短い工期での発注は違反に問われる方向に動いています。発注者側に具体的な残業試算を見せてスライドをお願いするのが、現実的な選択肢の1つです。
社内の工程で考えるなら、ピーク月に別支店や協力会社からの応援を入れる、特定技能や育成就労の活用で現場人員を増やす、資材先行手配でピークを前倒しする、といった打ち手も検討できます。これらは36協定の「使い方」を変えずに、残業そのものを減らすアプローチです。
ケース2|「災害復旧の応援に出すが、災害時除外の様式でよいのか」
被災地の災害復旧現場に、自社の職人を応援で出すことになったというご相談もよくいただきます。「災害時除外の様式を使えば月100時間規制が外れると聞いた」というご質問です。
直接そのまま第9号の4の様式に乗り換えることは、本業が通常の建設工事中心の場合、適切ではありません。災害復旧・復興の事業として扱えるのは、あくまで「災害復旧・復興を業として行っている期間」です。
ただし、取れる打ち手があります。通常の様式第9号の2のまま、「臨時的な特別の事情」に「大規模災害発生時の応急復旧応援対応」を明記し、応援期間中は特別条項の時間外労働枠を使って運用するのが現実的です。応援終了後は、健康確保措置(医師の面接指導や代休付与)を忘れずに実施するところまでがワンセットです。
ケース3|「一人親方だが、繁忙期だけ人を雇っている」
一人親方として長年やってきたが、ここ数年は繁忙期だけ知り合いの職人さんに手伝ってもらっている、というご相談も増えています。
直接そのまま「一人親方だから36協定は不要」とお答えすることはできません。人を雇った瞬間に、労基法上の「使用者」になるからです。
ただし、ここも代替案があります。短期間だけであっても雇用契約を結ぶ場合は、1人であっても36協定を届け出ておくのが安心です。一方で、委任・請負契約として対等な立場で業務をお願いするのであれば、36協定の対象外になります。実態がどちらに近いかの線引きは繊細ですが、「指揮命令の有無」「道具・時間の自由度」「報酬の支払方」をチェックすれば、見分けが立ちます。
多くの企業様が、この線引きで迷われています。細やかに寄り添いながら、どちらの形で進めるのが御社の実態と希望に合うか、一緒に考えてまいります。
経営者
社労士
まとめ|建設業の36協定は「書く」より「使う」へ
ここまで建設業の36協定について、2024年の規制変更から様式の選び方、実務のつまずきポイント、ケース別の打ち手まで一緒に見てきました。最後に、建設業の経営者様に持ち帰っていただきたい3つの視点をまとめます。
①「書く書類」から「現場の働き方を描く地図」へ
1つ目は、36協定を「書類」ではなく「地図」として捉える視点です。年度のピークと通常月、ピークに応援が入れる人・入れない人、特別条項のトリガーになる状況。これらを協定の中に書き出すことは、御社の働き方を一枚の地図に描く作業に他なりません。
地図があれば、現場で急な工期短縮の依頼があったときも「このピーク月はもう使い切っているから、別案を発注者に打診する」といった判断が、感覚ではなく事実ベースでできるようになります。
②特別条項は「保険」であって「標準」ではない
2つ目は、特別条項を「保険」として位置づける視点です。特別条項は、原則上限を超える働き方を「標準運用」として前提にするためのものではありません。あくまで、どうしても起きてしまう臨時的な事情への備えです。
毎月のように月80時間を超える残業が常態化しているとしたら、特別条項を見直す前に、業務設計そのものを見直すサインです。「人を活かして、経営に力を」を実現するためには、人の時間の使い方を「守るべき資源」として扱う発想が欠かせません。
③迷ったら、一人で抱え込まず伴走者と一緒に
3つ目は、迷ったら一人で抱え込まないことです。建設業の労務は、現場の実態と法律の文言との間に大きな距離があります。その距離を一人で埋めるのは、本業に集中したい経営者様にとって本来の仕事ではないはずです。
ご不明な点や、ちょっとした疑問があれば、お気軽にご相談ください。どんな些細なことでも、まずはお話をお聞かせいただければと思います。
私たちKT社労士事務所は、経営者様の隣で一緒に考える伴走者として、細やかに寄り添うサポートを大切にしています。建設業・スタートアップを中心に、拡大よりも深化を選び、深く長く関わる関係性を積み重ねてきました。36協定という書類の先にある、「御社の人を活かす仕組み」を一緒に描いていけたらと思います。
よくあるご質問(FAQ)
Q1. 建設業は2024年4月から残業の上限規制が適用されたと聞きました。それ以前の36協定はそのまま使えますか?
2024年4月1日以降の協定期間に入るものは、新しい上限規制(原則月45時間・年360時間、特別条項でも年720時間・単月100時間未満ほか)に沿って作り直す必要があります。協定期間が途中で2024年4月を跨ぐ場合も、以降の期間については新上限が適用されますので、早めに様式の見直しを進めるのが安心です。
Q2. 一人親方で従業員はいません。それでも36協定の届出は必要ですか?
労働基準法上の「労働者」を一人も雇っていない期間は、36協定の届出は原則不要です。ただし、繁忙期だけでも日雇いやアルバイトを雇った瞬間から、その事業場では36協定の対象になります。「人を雇ったら36協定」と覚えていただくと安心です。
Q3. 災害復旧・復興の現場に応援で入ることが多いのですが、どの様式を使えばよいのでしょうか?
常態的に災害復旧・復興事業を手がける場合は様式第9号の3の2(特別条項なし)または第9号の4(特別条項あり)を、通常工事が中心で臨時的に応援に行く場合は様式第9号/第9号の2を使うのが基本です。ご自身の事業の実態がどちらに近いか、具体的な工事内訳をもとに一緒に判断してまいります。
Q4. 工期の関係で、どうしても特別条項の月100時間ギリギリまで働いてもらう月が出そうです。問題ないでしょうか?
特別条項を結んでいる場合でも、時間外+休日労働は「単月で100時間未満」「2〜6か月平均で80時間以内」「年720時間以内」を同時に満たす必要があります。「100時間までは大丈夫」ではなく「100時間を超えないよう設計し、健康確保措置をセットで入れる」が正しい運用です。工期や応援の組み替えで月100時間に迫らない組み立てができないか、一緒に設計してまいります。
Q5. 36協定を結ばずに残業させた場合、具体的にどんな罰則がありますか?
労働基準法第119条により、使用者に対して「6か月以下の懲役または30万円以下の罰金」が定められています。また、公共工事の入札評価、建設キャリアアップシステム(CCUS)の運用、取引先のコンプライアンス審査にも影響するため、罰則の金額以上に経営リスクが大きい論点です。
Q6. どのタイミングで社労士に相談するのがおすすめですか?
いちばん多いのは「36協定の期間が切れる1〜2か月前」ですが、できれば「新しい工事を受注する前」や「新しく人を雇う前」にご相談いただけるとベストです。働き方を先に設計してから案件を取りに行くほうが、無理な残業や後からの修正を避けやすく、現場の負担も減ります。










