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建設業の就業規則|日給月給・常用工混在の中小建設業が整える実務

建設業の就業規則|日給月給・常用工混在の中小建設業が整える実務

「ネットで拾った雛形で就業規則を作ったけれど、日給月給の職人さんや直雇いの応援工にそのまま当てはめていいのか不安」。建設業の社長から、こうした相談をよくいただきます。

結論から申し上げると、建設業の就業規則は汎用テンプレだけでは現場に合いません。理由は3点。①日給月給・常用工・一人親方が同じ現場に混ざる、②直行直帰や移動時間など現場特有の時間とお金が発生する、③2024年4月から建設業にも時間外労働の上限規制が本適用された、です。

本記事では、建設業の社長が最初に押さえておきたい作成・届出義務、絶対的必要記載事項、雇用形態別の書き分け、2024年問題への対応、作成〜届出の流れを社労士の実務目線で整理していきます。

INDEX≡目次

建設業に「汎用テンプレの就業規則」が合わない3つの理由

建設業の就業規則で一番つまずきやすいポイントは、ネットの汎用テンプレをそのまま使ってしまうことにあります。原因は、建設業に特有の「雇用の多様さ」「時間とお金のかたち」「2024年問題」の3点で、どれも一般的な事務職の雛形には想定されていません。

とくに雇用形態と労働時間の2軸は、現場の実態と条文が食い違うと、未払賃金や労基署の指摘といった形で後々の負担になりがちな領域。まずは、どこで食い違いが出るのかを可視化しておくことから始めましょう。

観点汎用テンプレの前提建設業の現場実態出典・参照
雇用形態月給制の正社員が中心月給正社員・日給月給・常用工・一人親方が混在労働基準法第89条
労働時間始業終業時刻を固定現場ごとに始業終業が変動/直行直帰あり労働基準法第32条
時間外労働月45時間・年360時間(一般業種)2024年4月から建設業にも本適用労働基準法第36条(2024年4月適用)
手当通勤手当・家族手当が中心現場手当・資格手当・出張手当が加わる労働基準法施行規則第21条

日給月給・常用工・一人親方が同じ現場に混在する

建設業では、月給の正社員だけでなく、日給月給制(出勤日数で月給を計算する方式)の職人、常用工(直雇いの日雇い・短期雇用)、一人親方(請負)が同じ現場で働くケースが珍しくありません。

この中で就業規則の対象になるのは「雇用契約を結んでいる労働者」だけ。一人親方は請負契約で現場に入るため、原則として就業規則の対象外です。汎用テンプレは「月給制の正社員」を前提に書かれていることが多く、日給月給制の計算方法や常用工の扱いは別途書き加える必要が出てきます。

社労士として現場を拝見していると、「同じ会社の仲間だから」と全員に同じ就業規則を適用しようとした結果、賃金計算が実態と合わなくなった事例を見かけます。細かく見ていないと大きいトラブルに発展してしまう。だからこそ、雇用形態の整理が最初の一歩です。

直行直帰・移動時間・立替経費など「現場特有の時間とお金」がある

建設業は、朝の集合場所から現場へ移動する、現場から次の現場へ直接向かう、資材を立替で購入する、といった「事務所勤務にはない時間とお金」が日常的に発生する業種。

労働時間として扱うべき移動時間はどこからどこまでか、立替経費の精算ルールはどう書くか、交通費・現場手当はどう整理するか——このあたりは事業場ごとに実態が違うため、雛形の文言そのままでは、後からトラブルの火種になりかねません。

集合場所から現場までの移動を労働時間とみなすか、現場から現場への移動をどう扱うか。実務では事業場の運用ルールに左右されるため、就業規則で曖昧なまま残しておくと解釈のズレが生じやすい、現場特有の論点です。

2024年問題(時間外労働の上限規制)に対応した書き換えが必要

2019年の働き方改革関連法の施行時、建設業は時間外労働の上限規制について5年間の適用猶予がありました。この猶予が終わり、2024年4月から建設業にも時間外労働の上限規制が原則どおり適用されています(労働基準法第36条)。

ネット上に残っている古い雛形には、まだ猶予期間を前提にした記載や、上限規制自体に触れていないものも散見されます。古いまま使い続けると、36協定との整合が取れず、労基署の調査で指摘を受ける要因になりかねません。

工期が逼迫する時期ほど、上限規制の壁をどう越えるかが問われます。災害復旧・復興の事業は一部例外がありますが、通常業務では「特別条項を使っても超えられない数字」として、建設業の社長に正しく理解していただきたい領域です。

就業規則の作成・届出義務|建設業がつまずきやすい「10人の数え方」

就業規則の作成・届出義務は、常時10人以上の労働者を使用する「事業場」単位で発生します(労働基準法第89条)。建設業の社長から相談を受けていていちばん多い誤解は、「会社全体の人数」で判断してしまうこと。実際は事業場ごとに判定するため、本社と営業所で別々に見るのが原則です。

ここに加えて、建設業では「一人親方や下請の職人を含めるのか」という独特の論点が入ります。名目は請負でも、実態として指揮命令を受けていれば労働者と判断される場面もある、という点が建設業ならではの難しさ。10人カウントの原則と例外を整理していきます。

建設業の就業規則|「10人の数え方」判定マトリックス
雇用契約の有無と勤務の継続性で、就業規則の作成・届出義務の対象になるかが変わります。
 
常時勤務
短期・日雇い
雇用契約あり
○正社員・日給月給
→カウント対象
○常用工
→カウント対象
請負契約
×一人親方(請負)
→原則対象外
※実態が労働者なら対象
×単発の請負職人
→対象外

労基法第89条の作成・届出義務(事業場単位で判定)

労働基準法第89条では、「常時10人以上の労働者を使用する使用者は、就業規則を作成し、所轄の労働基準監督署長に届け出なければならない」と定められています。

ここでいう「事業場」は、場所的に独立した一つの働く場のこと。本社と工事事務所、本社と営業所がそれぞれ独立していれば、別の事業場として扱うのが原則です。本社5人・営業所6人のとき、合計11人でも「10人以上の事業場」はまだ存在しないため、作成義務がない、という判定になり得ます。

ただし、本社と営業所が実態として一体運営されていれば、1つの事業場とみなされる場合も。形式だけで判断せず、実態をあわせて見るのが社労士目線での大原則です。

一人親方・下請の職人は「10人」に含めるのか

カウントの対象は雇用契約を結んでいる労働者で、一人親方や下請の職人は含まれないのが原則。ただし、「請負」と書いてある契約でも、実態として指揮命令を受けていて労働者性が認められるときは、カウントに含まれる方向で判断されます。

名目は請負だけれど実態は労働者、というケースは、建設業特有の論点として国土交通省や厚生労働省の資料でもたびたび注意喚起されている領域。「書面の形」と「現場の実態」がずれていないかを、一度棚卸ししておく価値があります。

厚生労働省は「労働者か請負か」の判断基準として、仕事の依頼を拒否できるか、業務の遂行方法を自分で決められるか、報酬が時間給的な性格か成果報酬か、といった要素を総合的に見るスタンスを示しています。契約書だけで判定しないのが実務のポイント。

常時10人未満でも就業規則を整えておきたい理由

常時10人未満の事業場には、法律上の作成・届出義務はありません。それでも、私たちKT社労士事務所では、10人未満の建設業の社長にも、細やかに寄り添いながら就業規則の整備をご提案するケースが多いです。

理由は3つ。①採用時に「どんな会社か」を言葉で示せる、②問題社員が出たときに懲戒・解雇の根拠になる、③キャリアアップ助成金など多くの助成金で就業規則の整備が要件になっているから、です。

「人数が増えてから慌てて作る」より、小さいうちから自社に合う形で整えておく方が、結果として本業に集中できる環境が整います。会社の成長カーブに合わせて、少しずつ条文を増やしていく進め方も現実的な選択肢です。

10人以上/10人未満|事業場規模別・就業規則の必要度比較
項目常時10人以上の事業場常時10人未満の事業場
作成義務法的義務あり(労基法第89条)法的義務なし/整備は推奨
労基署への届出義務(意見書添付)任意(届出すれば効力の根拠が強まる)
従業員への周知義務(労基法第106条)整備した場合は周知が前提
助成金申請の要件多くの助成金で必須キャリアアップ助成金等で必須
懲戒・解雇の根拠就業規則が根拠就業規則がないと根拠が弱くなる

必ず書く「絶対的必要記載事項」|建設業で押さえたい記載のコツ

就業規則には、必ず記載しなければならない「絶対的必要記載事項」が労基法第89条に3つ定められています。労働時間関連・賃金関連・退職関連の3領域で、どれも抜けていると就業規則の体裁が整わない重要項目。

建設業では、同じ項目でも「現場ごとに事情が違う」ため、書き方に少しコツが要ります。実際の運用で機能する就業規則にするには、現場実態と条文の橋渡しをどう設計するかが大事なポイント。ここでは3領域それぞれで、建設業ならではの記載のコツを整理していきます。

建設業向け|絶対的必要記載事項チェックリスト
1. 労働時間関連(始業・終業・休憩・休日・休暇)
2. 賃金関連(計算・支払・残業代の計算基礎)
3. 退職関連(自己都合・定年・解雇の事由)

始業・終業時刻、休憩、休日、休暇(現場ごとに差が出る建設業の書き方)

建設業の始業・終業時刻は、現場によって変わるのが現実です。朝礼が7時の現場もあれば8時の現場もあり、冬場と夏場で時刻が動く現場もあります。

このときに「始業8時・終業17時」と1つに固定して書いてしまうと、実態と合わない運用になりがち。おすすめは「原則の時刻を定めたうえで、現場ごとに別途定めることがある」と書く方式。別途定めるときの連絡方法(前日までに現場監督から通達する等)まで明記しておくと、現場での混乱を防げます。

休日・休暇については、4週4休制を取るのか、週休2日制を目指すのかで書き方が変わってきます。2024年の時間外労働上限規制の本適用に合わせ、休日の取り方を見直す会社も増えてきました。年次有給休暇の取得義務(年5日・労働基準法第39条)への対応も、休暇の章で明記しておきたい論点です。

賃金の決定・計算・支払方法、締日・支払日

建設業でもっとも細やかに書き分けたいのが賃金の章です。月給制・日給月給制・日給制・時給制、どの計算方式を採用するかを明記し、残業代の計算基礎(基本給+どの手当を含めるか)、欠勤時の控除方法、締日・支払日を具体的に定めます。

社労士として現場でよく拝見するのが、「残業代の計算基礎をどこまでにするか曖昧なまま運用して、未払賃金のリスクが残っているケース」。家族手当や通勤手当は法令上、残業代の計算基礎から除外できますが、建設業に多い資格手当・現場手当・技能手当は原則として計算基礎に含める必要があります(労働基準法施行規則第21条)。

賃金規程を就業規則本体から分けている会社も多く見かけますが、どちらの形式でも構いません。大事なのは、月末締め翌月15日払いなのか、15日締め当月25日払いなのか、建設業は現金払いの慣行が残る地域もあるため、支払方法・支払日を明確に書き切ることです。

退職(解雇の事由を含む)

退職の章では、自己都合退職の申出期間、定年、解雇の事由を明記します。解雇の事由を具体的に書いておかないと、いざという場面で解雇の根拠が示せません。

「職務を遂行する能力を著しく欠くとき」「無断欠勤が連続○日に及んだとき」など、客観的に判断できる基準で定めるのがポイント。建設業では、現場での重大な安全規律違反や、資格を要する作業に無資格で従事した場合などを事由として加えておくことも検討の余地があります。

社長の中には「解雇のことなんて書くと社員が不安になる」と仰る方もいらっしゃいます。ただ実際は、解雇の事由をきちんと書くことで、「どういう行為は会社として許容できないのか」が明確になり、むしろ安心して働ける環境につながる、という面もあるのです。

日給月給・常用工・一人親方|雇用形態別の規定の書き分け

建設業の就業規則で一番の肝が、雇用形態別の書き分けです。「同じ現場で働く仲間」という気持ちは大切にしつつも、就業規則の中では雇用契約の有無で記載を明確に分けることが、後々のトラブル予防につながります。

雇用形態ごとに、適用する条文の範囲・賃金の計算方法・社会保険の加入要件が変わってきます。ここを曖昧なまま運用すると、未払賃金・社会保険未加入といった形で後から大きな負担になりがち。社労士として現場でよく拝見する「雇用形態の棚卸し」の勘所をお伝えします。

日給月給制の正社員・雇用契約の明確化

日給月給制とは、月給の形を取りながら、出勤日数×日額で月給を計算する方式のことです。例えば日額1.5万円で、月の出勤日数が22日なら、その月の月給は33万円という計算になります。

汎用テンプレは完全月給制(欠勤しても月給が変わらない)を前提にしていることが多く、そのまま使うと、欠勤時の控除計算が曖昧になる、残業代の計算基礎が実態と合わない、といった課題が残りがち。日給月給制を採用する場合は、日額・計算方法・欠勤時の扱い・休日の扱いを就業規則または賃金規程に明記しましょう。

雇用契約書も重要です。就業規則で「日給月給制の規定を適用する」と書くだけでなく、個別の雇用契約書で日額・諸手当を具体的に書いておくと、採用時のミスマッチ防止につながります。

常用工(直雇いの日雇い・短期雇用)に必要な書き方

常用工とは、自社に直接雇われている日雇い・短期の職人さんのこと。一人親方(請負)とは違い、雇用契約を結んでいる労働者ですから、就業規則の対象になります。

おすすめは、就業規則の本体で「常用工にはこの規則の一部を適用する/別途定める」と範囲を示したうえで、常用工用の章または別の規程を用意する方式。社会保険・労災・雇用保険の加入要件や、日々の賃金計算方法を具体的に書き分けます。

労災は常用工にも適用されるため、現場で万が一の事故があったときに備え、労働保険番号の管理・特別加入制度(一人親方・中小事業主)の利用状況まで、就業規則とは別の労務台帳で整えておくと安心です。

一人親方(請負)は就業規則の対象外|現場協力のルールは別書面で

一人親方は請負契約で現場に入るのが基本のため、就業規則の対象外です。ここで「ダメです、就業規則では縛れません」で終わってしまうと、現場の安全・納期管理が難しくなってしまうのが悩ましいところ。

直接そのままの形では就業規則で縛ることは難しい部分があるのが実情。ただ、こちらのアプローチであれば実現可能です。「現場協力に関する合意書」「安全衛生に関する覚書」として、就業規則とは別の書面で現場ルールを定める方法をご検討ください。朝礼参加・安全教育の受講・報告義務などを合意書で定めれば、就業規則の対象外のまま現場運営のルールを機能させられます。

「できません」で終わらず「こっちならできる」の形で、一緒に設計していけるのがこの領域の面白さ。社長の思いと法令の制約を両立させる、建設業の労務ならではの醍醐味とも言えます。

雇用形態別|就業規則と社会保険の違い(建設業)
日給月給の正社員
就業規則の対象
○ 対象
社会保険
加入対象(要件次第)
労災・雇用保険
加入
賃金計算
日額×出勤日数で月給計算
常用工(直雇い短期)
就業規則の対象
○ 対象(別章推奨)
社会保険
加入対象(要件次第)
労災・雇用保険
加入
賃金計算
日額×出勤日で日々支給
一人親方(請負)
就業規則の対象
× 原則対象外
社会保険
自身で国保・国民年金
労災・雇用保険
特別加入制度の活用
賃金計算
請負契約に基づく報酬

建設業で特に効く「相対的必要記載事項」|手当・2024年問題・ハラスメント

定めがあるなら書くのが相対的必要記載事項です。建設業特有の手当、2024年4月から適用された時間外労働の上限規制、2022年4月から中小企業も義務化されたハラスメント対応は、この相対的記載事項で明文化しておきたい領域。

絶対的必要記載事項と違って「書かなくても法律違反にはならない」項目ですが、書いておかないと社内で解釈のズレが生じやすい論点でもあります。労基署の調査が入ったときに「どうなっていますか?」と最初に聞かれるのも、だいたいこのあたりの運用ルール。実務で効く記載のコツを3つの切り口で整理しましょう。

2024年問題|建設業の時間外労働上限規制 対応ステップ
1
現状把握
現場別の労働時間を集計/繁忙期の時間外実績を可視化
2
36協定の見直し
月45h・年360h/特別条項の上限(年720h等)に適合
3
就業規則への反映
時間外労働の根拠条文/休日・休暇の章と整合を取る
4
運用・工程管理
現場監督と情報共有/工期・人員の再設計で上限内に収める
※災害復旧・復興の事業には一部例外あり。通常業務では、特別条項を使っても年720時間・単月100時間未満・複数月平均80時間以内の壁は越えられません。

出張手当・現場手当・資格手当などの建設業特有の手当

建設業では、遠方現場への出張手当、現場手当、資格手当(玉掛け・フォークリフト・技能講習等)を支給している会社が多いです。これらは支給条件・金額の算定方法を就業規則または賃金規程に書くのが前提になります。

ここで気をつけたいのが、残業代の計算基礎に含めるか・除外するかの判断。労働基準法施行規則第21条で除外が認められているのは、家族手当・通勤手当・別居手当・子女教育手当・住宅手当・臨時に支払われた賃金・1か月を超える期間ごとに支払われる賃金の7つに限られています。

資格手当・現場手当・技能手当は原則として残業代の計算基礎に含めることになる、と覚えておきましょう。この整理ができていないと、未払賃金の計算根拠がぐらついてしまうので、賃金規程の設計時点で明確にしておきたい論点です。

時間外労働の上限規制(2024年問題)と36協定との整合

建設業にも2024年4月1日から時間外労働の上限規制が本適用されました。原則、月45時間・年360時間が上限で、特別条項を結んでも年720時間・単月100時間未満・複数月平均80時間以内という制約がかかってきます(労働基準法第36条)。

就業規則では、「業務上の必要があるときは時間外労働を命じることがある」という根拠条文を置くとともに、36協定で定めた上限時間との整合を取ります。災害時の復旧・復興の事業については一部例外がありますが、通常業務では特別条項を使っても超えられない数字として、現場の工程管理に反映させていくのが要になります。

社労士の立場で現場を拝見すると、「36協定は提出しているけれど、就業規則の労働時間の章が古いまま」というケースを少なからず見かけてきました。両者の整合は、2024年以降の必須ポイント。工程と労務のバランスを一緒に見ていく、よい機会にもなります。

ハラスメント防止・相談窓口(中小企業も2022年4月から義務化)

ハラスメント防止措置は、2022年4月から中小企業にも義務化されています(労働施策総合推進法)。パワーハラスメント・セクシュアルハラスメント・妊娠出産育児休業等に関するハラスメントの防止方針、相談窓口、相談者への不利益取扱いの禁止などを就業規則または別途の規程で定めることが求められる領域です。

建設業は、現場での「指導」と「ハラスメント」の線引きが難しいところ。「厳しい現場だから仕方ない」ではなく、何が指導で何がハラスメントかを就業規則に書き、相談窓口の連絡先まで整えておくことが、人材定着にもつながります。

細かく見ていないと大きいトラブルに発展してしまう——ここは特に、予防の視点で手を打ちたい領域。相談窓口の設置先は社内でも社外(顧問社労士・外部EAP等)でもよく、現場実態に合う形で選ぶのがポイントです。

作成〜届出の流れ|従業員代表の選び方と周知のポイント

就業規則は「作って終わり」ではなく、従業員代表の意見を聴き、所轄労基署へ届出し、全員に周知するまでが一つのセット。建設業は現場が分散しているため、周知の仕方を事前に設計しておくことが特に大事です。

ここで誤解されやすいのが「社長が従業員代表を指名してよい」というイメージ。実際は、監督・管理の地位にある者は代表者になれず、投票・挙手・話し合い等の民主的な方法で選出する必要があります(労働基準法施行規則第6条の2)。形式不備で届出がやり直しになる事例も見かけるため、流れ全体をきちんと押さえておきましょう。

就業規則の作成〜届出〜周知|5ステップのフロー
STEP 01
素案作成
自社の実態を棚卸し/条文を組み上げる
STEP 02
従業員代表の選出
投票・挙手等の民主的な方法で選出
STEP 03
意見聴取
代表者から意見書を受け取る(同意不要)
STEP 04
労基署へ届出
就業規則本体+意見書+届出書を提出
STEP 05
周知
掲示/書面交付/スマホ共有の3段構え
STEP02の代表者選出とSTEP05の周知は、建設業で特につまずきやすい2つの関門。現場が分散しているため、形式不備で届出がやり直しになったり、周知が行き渡らずに効力が争われたりしがちな論点です。

従業員代表(過半数代表者)の正しい選び方

就業規則を労基署に届け出るときは、過半数組合がある場合はその組合、ない場合は過半数代表者の意見を聴き、意見書を添付する必要があります(労働基準法第90条)。

ここでよく誤解されるのが「社長が指名していい」というイメージ。実際は、監督・管理の地位にある者は代表者になれず、投票・挙手・話し合い等の民主的な方法で選出する必要があります(労働基準法施行規則第6条の2)。社長が「お前やってくれ」と指名した代表の意見書を添付した届出は、形式不備として指摘される可能性があります。

建設業は、現場に散らばっている職人さんから投票をどう集めるかが実務的な課題。LINEや書面での選挙、朝礼での挙手など、現場実態に合う方式で民主的に選ぶ流れを整えておきましょう。

所轄労働基準監督署への届出と意見書の添付

届出先は事業場を管轄する労働基準監督署。本社と営業所でそれぞれ就業規則があるなら、それぞれの管轄署に届け出る形になります。

必要な書類は、就業規則本体・従業員代表の意見書・届出書(就業規則届)の3点が基本。電子申請(e-Gov)での届出も可能になっており、現場が分散している建設業にとっては使い勝手が良い選択肢です。

意見書は「同意書」ではないので、仮に反対意見が書かれていても届出自体は受理されます。ただし、反対意見が出た論点については、改めて社内で話し合いをしてから施行する流れが現場の納得感を高めるコツ。

直行直帰が多い建設業の「周知」をどう設計するか

就業規則は、全労働者に周知してはじめて効力が生じます(労働基準法第106条)。見やすい場所への掲示、書面交付、イントラ掲載などの方法が示されています。

建設業は現場に直行直帰する職人さんが多く、「本社に貼っていても見ない」というのが現実。おすすめは、①現場事務所やユニットハウスにも掲示する、②入社時に書面交付する、③スマホで見られる形で共有するの3段構えで設計すること。

社長の方針が「現場でちゃんと伝わる」ための、小さな工夫が効いてきます。周知の方法まで就業規則の付則に書いておくと、「周知されていなかった」という後日の争いを防ぎやすくなります。

中小建設業が無理なく整える「就業規則の第一歩」

最初から完璧を目指すと、動けなくなるのが就業規則整備の現実。建設業の経営者様に細やかに寄り添いながら私たちがご案内しているのは、「優先順位の高いものから、一緒に整えていく」という進め方です。

「人を活かして、経営に力を」の立場で、無理のない一歩目をご提案します。10条の就業規則を一気に100条に増やす必要はなく、現場で起きる課題から逆算して、必要な条文を順番に組み上げていくほうが結果として機能しやすい、というのが実務の肌感覚。社長の思いを就業規則に翻訳していくプロセス、そのものが伴走の始まりです。

まず「これだけは」整えたい3つの条文

就業規則をゼロから作る場合も、既存のものを見直す場合も、まず押さえたいのは①労働時間(始業・終業・休憩・休日)、②賃金(計算方法・残業代の計算基礎・締日・支払日)、③ハラスメント防止(相談窓口の設置・不利益取扱いの禁止)、の3つの条文です。

労働時間と賃金は、未払賃金・労働時間違反という大きなリスクに直結する部分。ハラスメントは、中小企業も義務化されている部分で、相談窓口の設置が最低ラインになります。この3つが整っていれば、労基署の調査が入っても大きな指摘を受けにくい土台ができあがります。

残りの条文(服務規律・懲戒・休職・退職金・教育訓練など)は、会社の成長や課題の発生タイミングに合わせて、順次整えていけばよい領域。「全部を一度に完璧にしなくていい」という気の持ちようが、現場を動かす第一歩です。

既存の就業規則がある会社は “棚卸し” から始める

既存の就業規則がある会社は、ゼロから作り直すよりも「棚卸し」から始めるほうが、効率的で現場に馴染みやすいもの。棚卸しの観点は、①最新の法令(2024年問題・ハラスメント義務化・育児介護休業法改正)への対応、②自社の現場実態との乖離、③過去にトラブルがあった論点のカバー、の3つに整理できます。

「どこを直せばいいか分からない」と感じるのは、きっと真面目に向き合っているから。一緒に棚卸しのチェックリストを作るところから始めれば、負担を少しずつほどけていく感覚が得られるはずです。

棚卸しは、1条ずつ現場実態との整合を確認する地道な作業ですが、ここを飛ばして条文の追加だけ重ねると、互いに矛盾する条文が残ってしまう、ということが起こりがち。急がば回れの発想で、全体を見直すのがおすすめです。

お困りのときは、お気軽にご相談ください(伴走サポート)

ここまで読んでくださった社長から「結局、自社で何から着手すればいいのか」と相談をいただくことがよくあります。会社の規模・雇用形態・現場の分散度合いによって、第一歩は変わる、というのが社労士の実感。

私たちKT社労士事務所は、建設業・スタートアップを中心に、経営者様の隣で一緒に考える伴走者として、外付けの人事労務のような形でサポートさせていただいています。「先生」として指示するのではなく、同じ目線で現場の実態をお聞きしながら、無理のない形で就業規則を整える道筋を一緒に見つけることを大切にしています。

ご不明な点や、ちょっとした疑問があれば、お気軽にご相談ください。どんな些細なことでも、まずはお話をお聞かせいただければと思います。

朝日が差し込む建設現場の作業スペースと建設業 就業規則の資料

よくあるご質問(FAQ)

Q. 従業員が10人未満の建設業でも、就業規則を作ったほうがいいですか?

A. 法律上の作成・届出義務は常時10人以上の事業場からとなりますが、10人未満でも就業規則を整えておくのがおすすめ。採用時のミスマッチ防止、解雇や懲戒の根拠、助成金申請の要件など、「あって助かる場面」が複数あるためです。小さいうちから自社に合う形で整えておくほうが、人数が増えてから慌てて作るよりずっと楽です。

Q. 一人親方は就業規則の対象になりますか?

A. 一人親方は雇用契約ではなく請負契約で現場に入るのが基本のため、就業規則の対象外。ただし、現場の安全ルールや遵守事項などは、就業規則とは別に「現場協力に関する合意書」「安全衛生に関する覚書」として整えておくと、双方の認識ずれを防げます。「請負契約でも実態は労働者」と判断される場合はカウントの対象になるので、名目と実態の整合は一度確認しておくと安心です。

Q. 日給月給と月給制は、就業規則で分けて書いたほうがいいですか?

A. はい、賃金の計算方法が異なるため、就業規則本体または別紙の賃金規程で明確に書き分けるのがおすすめ。欠勤時の控除方法、残業代の計算基礎額など、曖昧なまま運用すると未払賃金のリスクにつながってしまいます。日給月給制を採用するなら、日額・計算方法・欠勤時の扱い・休日の扱いまで明記しておくと安心です。

Q. 2024年問題の時間外労働の上限規制は、就業規則にも書く必要がありますか?

A. 就業規則で時間外労働を命じる根拠(業務上の必要があるときは時間外労働を命じることがある等)を定めるとともに、36協定で定めた上限時間との整合を取るのがおすすめ。原則月45時間・年360時間、特別条項でも年720時間・単月100時間未満・複数月平均80時間以内という、建設業に適用される上限を踏まえた記載が必要となる領域です。

Q. 既存の就業規則があるのですが、改定だけでも相談できますか?

A. もちろんです。むしろ、ゼロから作り直すよりも、現状の就業規則を棚卸ししたうえで、現場の実態や法改正に合わせて改定していくほうが、スムーズに運用に乗る印象。「どこから直せばいいか分からない」段階でも、お気軽にご相談ください。一緒に棚卸しのチェックリストを作るところから始められます。

私たちKT社労士事務所は、経営者様の隣で一緒に考える伴走者として、細やかに寄り添うサポートを大切にしています。建設業の社長が本業に集中できるよう、就業規則の整備から日々の労務相談まで、丁寧かつスピーディーに対応いたします。

出典・参考

  • 厚生労働省「令和6年の労働災害発生状況を公表します」(2025年5月公表)
  • 労働基準法第89条(就業規則の作成・届出義務)
  • 労働基準法第90条(従業員代表の意見聴取義務)
  • 労働基準法第106条(就業規則の周知義務)
  • 労働基準法第36条(時間外労働の上限規制、建設業は2024年4月本適用)
  • 労働基準法施行規則第6条の2(過半数代表者の要件)
  • 労働基準法施行規則第21条(残業代の計算基礎から除外できる手当)
  • 労働施策総合推進法(パワーハラスメント防止措置義務化、中小企業は2022年4月から)

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田渕 花純

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田渕 花純

Kasumi Tabuchi

KT社会保険労務士事務所 代表/社会保険労務士

客室乗務員として培った「人を見る感度」を強みに、社会保険労務士として建設業・中小企業の労務を支える。トラブルの予兆を見逃さない予防型のサポートと、「できません」で終わらせず代替案を示す姿勢を大切にしている。東京・江東区を拠点に、外国人雇用・労災特別加入・一人親方対応など建設業特有の課題にも対応。

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