お問い合わせ

03-6823-2339

受付時間:月〜金 10:00〜18:00

建設業の労働時間|移動時間・残業上限を社労士が整理

建設業の労働時間|移動時間・残業上限を社労士が整理

「これって労働時間に入るのかな」——建設業の現場では、そんな線引きに迷う場面がよく出てきます。朝の集合、現場までの移動、天候待ち、後片付け。どれも当たり前の日常だからこそ、扱いが曖昧なまま流れがちです。けれど、この小さな曖昧さが、あとで従業員との行き違いを生むこともあります。

この記事では、建設業の労働時間で「よく聞かれる疑問」を、社労士の視点で整理します。取り上げるのは、①現場までの移動時間、②残業(時間外労働)の上限と36協定、③残業代という3つのテーマ。むずかしい条文の言い回しはできるだけほどき、御社の現場に置きかえて読める形にまとめました。責め立てるための話ではありません。経営者の隣で一緒に確認していく、そんな気持ちで進めます。まずは全体像から、順番に見ていきましょう。

INDEX目次

建設業の労働時間の基本ルール(1日8時間・週40時間と休憩・休日)

まずは労働時間の“ものさし”をそろえておきませんか。ここが定まると、あとの話がぐっと分かりやすくなります。

建設業の労働時間の全体像
所定労働時間
(会社が決めた勤務時間・原則8時間まで)
休憩
時間外労働(残業)
36協定が必要
始業法定労働時間 1日8時間・週40時間のライン終業
法定労働時間の範囲内 休憩(6時間超で45分/8時間超で60分) 時間外労働=割増賃金の対象
「所定」は会社が決めた勤務時間、「法定」は1日8時間・週40時間という法律のライン。この線を超えて働いてもらうには、36協定と割増賃金が必要になります。(労働基準法)

法定労働時間(1日8時間・週40時間)と休憩・休日の原則

労働基準法では、働く時間の上限として1日8時間・週40時間という原則が定められています。これが法定労働時間です。労働基準法では、労働時間が6時間を超えれば45分以上、8時間を超えれば1時間以上の休憩も必要とされています。休日は週1日、または4週で4日以上が基本の考え方です。

現場の感覚では「そんなの守れないよ」という声もよく伺います。ただ、この原則を知っているかどうかで、あとの残業管理のしやすさは大きく違ってきます。まずは自社の一日の流れを、この“ものさし”に当ててみましょう。

所定労働時間と法定労働時間の違い

似ているようで混同しやすいのが、この二つ。法定労働時間は法律が定める上限で、所定労働時間は会社が就業規則などで決めた勤務時間を指します。たとえば始業から終業まで休憩をはさんで実働8時間なら、所定労働時間は8時間という形です。

なぜ区別が大切かというと、残業代の計算に関わってくるからです。所定を超えても法定の範囲内なら、扱いが変わる場面もあります。言葉の違いを押さえるだけで、賃金まわりの誤解はぐっと減るのではないでしょうか。

2024年4月から建設業にも適用された時間外労働の上限規制

以前の建設業には、時間外労働の上限規制の適用が猶予されていました。ところが厚生労働省の資料によれば、2024年4月から、建設業にもほかの産業と同じ上限規制が適用されています。これにより、36協定の結び方や日々の記録の重みが、以前より格段に増しました。

「知らなかった」では済まない場面も出てきました。とはいえ、いきなり完璧を目指さなくて大丈夫。今の実態を把握するところから、御社のペースで整えていけば十分です。具体的な進め方は、記事の後半でご紹介します。

現場までの移動時間は労働時間?直行直帰・集合・待機をケース別に整理

建設業でいちばん相談が多いのが、この移動時間。集合の仕方ひとつで扱いが分かれるため、場面ごとに細やかに見ていきましょう。

現場までの移動時間は労働時間? 分かれ道
現場への移動、どんな形ですか?
A. 自宅から現場へ直行・直帰
会社の指示や集合はなく、自分で現場へ向かって、終われば直接帰る。
○ 原則「通勤時間」
労働時間に含まれにくい
B. 事業所に集合 → 積込・指示 → 現場
会社の指示で集合し、資材の積み込みや人員の送迎をしてから現場へ。
△ 「労働時間」になりやすい
指揮命令下にあるため

※ 集合の有無や指揮命令の実態で判断が変わります。迷う場面は実態に合わせて整理を。

自宅から現場への直行直帰は原則「通勤時間」

自宅から現場へ直接向かい、終われば直接帰る。この直行直帰の移動は、原則として通勤時間にあたり、労働時間には含まれないと考えられています。通勤は、会社の指揮命令のもとにある時間とは言いにくいためです。

現場が日ごとに変わる建設業では、この形が中心という会社も多いはずです。ただし「原則」と書いたのには理由があります。移動の途中に会社の指示による作業が加わると、話が変わってくるのです。次に、その分かれ目を見ていきます。

事業所に集合して資材を積み現場へ向かう時間は「労働時間」になりやすい

一方、いったん事業所や集合場所に集まり、資材を積んだり、道具や人員を乗せて現場へ向かったりする時間。これは労働時間として扱われやすいと考えられます。集合や積み込みが会社の指示で行われ、その場にいることが求められているからです。

建設業の実務家が発信する解説動画でも、この論点はよく取り上げられています。「事業所集合か、直行直帰か」で移動時間の扱いが分かれる。まさに現場のリアルな悩みどころと言えます。御社の集合ルールが今どちらに近いか、一度ふり返ってみてはいかがでしょう。

現場での待機・朝礼・後片付けの扱い

移動と並んで迷いやすいのが、現場での待機や朝礼、後片付けです。会社の指示で参加する朝礼、指示のもとで行う後片付けは、労働時間に含まれると考えるのが自然。天候待ちなどの手待ち時間も、すぐ作業に戻れるよう待機しているなら、休憩ではなく労働時間と捉えられます。

このあたりは「言われてみればうちも曖昧かも」となりやすい部分。小さな変化を見逃さないことが、大きなトラブルの予防につながります。まずは事実を洗い出すだけでも、次の一手が見えてくるはずです。

建設業の残業(時間外労働)の上限と36協定のきほん

2024年からの上限規制で、36協定の結び方がいっそう大切になりました。御社の現場に置きかえて整理していきましょう。

36協定と時間外労働の上限
前提
36協定を結び、労働基準監督署へ届け出る
残業してもらうための土台。これがないままの時間外労働は、法律上むずかしい部分が出てきます。
原則
月45時間・年360時間まで
通常の時間外労働の上限。まずはこのラインを意識します。(厚生労働省
特別
特別条項でも上限は残る
繁忙期などの上乗せ。ただし年720時間以内/単月100時間未満/複数月平均80時間以内などの上限があります。(厚生労働省)
※ 2024年4月から建設業にも適用。災害復旧・復興工事など一部に例外があります。

36協定と特別条項の関係

法定労働時間を超えて働いてもらうには、36協定(時間外・休日労働に関する協定)が欠かせません。この協定を結び、労働基準監督署へ届け出ておく形です。協定がないままの残業は、法律上むずかしい部分が出てきます。繁忙期などで通常の上限を超える見込みがあるなら、特別条項という上乗せの取り決めを備えておく形です。

「うちは口約束でやってきた」という現場も見かけます。責める話ではありません。ただ、協定という土台があると、経営者も従業員も安心して働けます。まずは自社に協定があるか、内容が実態に合っているかの確認から始めてみてください。

月45時間・年360時間の原則と特別条項の上限

厚生労働省によると、時間外労働の上限は原則で月45時間・年360時間です。特別条項を結んだ場合でも、上限は残ります。厚生労働省の解説では、年720時間以内、単月100時間未満(休日労働を含む)、複数月平均80時間以内などが示されています。これらは建設業にも2024年4月から適用されました。

数字が並ぶと身構えてしまうもの。大切なのは暗記ではなく、御社の残業が今どのあたりにあるかを“見える”状態にしておくことです。記録さえ整えば、危ないラインの手前で手を打てます。

災害復旧・復興工事などの適用除外の扱い

なお、災害の復旧・復興工事など一部の業務では、上限の一部が適用されない扱いがあります。社会的な必要性が高い緊急の工事に配慮した仕組みです。ただし、無制限に残業してよいという意味ではありません。

現場の実態を語る座談会や体験談の動画でも、長時間労働や多重下請けの負担は繰り返し話題になります。だからこそ、例外にあたる場合でも、健康への配慮と記録は欠かせないと捉えています。判断に迷うときは、工事の性質に照らして一緒に確認しましょう。

「残業代が出ない」は問題?割増賃金の考え方と計算のきほん

「日給だから残業代は関係ない」——この思い込みが、あとの行き違いを生むことがあります。御社を守るための整理として、基本を確認します。

時間外・深夜・休日の割増率

法定労働時間を超えて働いてもらった場合には、割増賃金が必要です。原則の割増率は、下表のとおり定められています。率だけを見ると複雑に感じるもの。ですが考え方はシンプルです。重い負担で働いてもらったぶん、賃金でしっかり報いる。その筋を押さえれば、計算のミスも防ぎやすくなります。

区分割増率の目安出典
時間外労働(法定労働時間を超える部分)25%以上労働基準法第37条
月60時間を超える時間外労働50%以上厚生労働省
深夜労働(22時〜翌5時)25%以上(時間外と別に加算)労働基準法第37条
法定休日の労働35%以上厚生労働省

固定残業代(みなし残業)で見落としやすいポイント

「固定残業代を払っているから安心」という声もよく伺います。固定残業代(みなし残業)は有効な仕組みですが、何時間分の残業代なのかを明確にしておくことが前提。想定した時間を超えて働いた分には、別途の支払いが必要です。

ここが曖昧なままだと、「払っているつもり」と「もらえていない」の食い違いが起きがち。就業規則や賃金の決め方とセットで整えておくと、双方が納得できる形へ近づきます。

一人親方・外注さんと「労働者性」の線引き

建設業ならではの論点が、一人親方や外注さんの扱いです。契約の名前が「請負」でも、油断はできません。実態として会社の指揮命令のもとで働いているなら、労働者性があると判断される場合があります。そのときは、労働時間や残業代のルールが関わってきます。

「うちは外注だから大丈夫」と決めつけず、実態を見ることが肝心。細かく見ていないと、大きなトラブルにつながりかねない部分だからです。線引きに迷ったら、契約書と実際の働き方の両面から一緒に点検しましょう。

一人親方・外注さんの「労働者性」チェックの視点
契約名が「請負」でも、実態で判断されます
チェックの視点労働者性が弱い(外注寄り)労働者性が強い(労働者寄り)
仕事の依頼を断れるか○ 断れる△ 断りにくい
働く時間・場所の拘束○ 自分で決められる△ 会社が指定・管理
報酬の性格○ 仕事の完成に対して△ 働いた時間に対して
道具・材料の負担○ 本人が用意△ 会社が用意
※ ひとつの項目だけで決まるものではなく、実態を総合して判断されます。△が多いほど、労働時間や残業代のルールが関わってくる可能性があります。

労働時間の「見える化」を進める3つの選択肢(できることから一緒に)

いきなり全部を完璧にする必要はありません。今のままでは難しい部分も、角度を変えれば無理なく始められます。御社に合う入り口を3つご用意しました。

労働時間の「見える化」3ステップ
STEP1記録
続けられる形で記録
紙の出面表でもアプリでもOK。まずは移動・待機・残業が「見える」状態をつくります。
STEP2見直し
就業規則・36協定を整える
移動時間・休憩・固定残業代の定めを、御社の実態に合わせて見直します。
STEP3伴走
外付けの人事労務として
記録の仕組みづくりから届け出まで、社外にいながら内部チームのように伴走します。
いきなり完璧でなくて大丈夫。今できるところから、一緒に整えていきましょう。

まずは勤怠の記録方法を「続けられる形」に整える

最初の一歩は、労働時間を記録に残すこと。とはいえ、高価なシステムをすぐ入れる必要はありません。今のやり方で続けられる形から始めるのが、結局いちばん定着します。紙の出面表でも、スマホのアプリでも、まずは移動・待機・残業が見える状態をつくるのが出発点です。

記録が残ると、「なんとなく多い気がする」が「実際にこうだった」へ変わります。事実が見えれば、どこから手をつけるかの判断もしやすくなるでしょう。無理のないところから、一緒に整えていきませんか。

就業規則と36協定を実態に合わせて見直す

次の一歩は、就業規則と36協定を現場の実態に合わせて見直すこと。書式だけ整っていても、実態と合っていなければ意味が薄れます。移動時間の扱い、休憩、固定残業代の定め方など、御社の働き方に沿った内容へ整えていきましょう。

「それは難しいです」で止まらず、「この方法なら進められます」と、別の道を一緒に探す。それが私たちの姿勢です。すでにある国の仕組みを正しく取り入れるだけでも、現場の環境は着実に整っていきます。

外付けの人事労務として、記録から申請まで伴走する

それでも「本業が忙しくて手が回らない」というのが、多くの経営者の本音ではないでしょうか。そんなときは、私たちを外付けの人事労務として使っていただく形があります。記録の仕組みづくりから、就業規則の整備、36協定の届け出まで、社外にいながら内部チームのように伴走します。

士業の「先生」として上から指示するのではなく、同じ目線のパートナーとして関わることを大切にしています。労務まわりを任せていただければ、経営者は本業に集中できる環境が生まれます。まずは御社の現状を、気軽にお聞かせいただくところからで十分です。

当事務所の建設業サポート就業規則の作成・見直しについても、それぞれのページでご案内しています。あわせてご覧ください。

よくある質問(FAQ)

Q. 建設業の現場までの移動時間は労働時間に含まれますか? 自宅から現場へ直行・直帰する場合は原則として通勤時間で、労働時間には含まれないと考えられます。一方、いったん事業所に集合し、資材の積み込みや指示を受けてから現場へ移動する時間は、労働時間として扱われやすくなります。集合形態や指揮命令の有無で判断が変わるため、迷ったときは実態に合わせてご相談ください。

Q. 建設業の1日の労働時間の上限は何時間ですか? 労働基準法の原則では1日8時間・週40時間が法定労働時間です。これを超えて働いてもらうには36協定の締結が必要で、2024年4月からは建設業にも時間外労働の上限規制が適用されています。

Q. 建設業の残業の上限はどのくらいですか? 厚生労働省によると、原則は月45時間・年360時間で、特別条項を結んだ場合でも上限が定められています。災害復旧・復興工事など一部で例外の扱いがありますが、いずれも36協定の適切な締結・運用が前提になります。

Q. 朝の準備や工具の積み込みの時間は労働時間になりますか? 会社の指示で事業所に集合し、準備や積み込みを行う時間は、労働時間として扱われやすいと考えられます。作業の指示があるか、その場にいることが求められているかが判断のポイントです。曖昧なまま運用していると誤解の元になるため、実態に合わせて整理しておくと安心です。

Q. 天候待ち・材料待ちの手待ち時間は休憩ですか? 手待ち時間は、いつでも作業に戻れるよう待機している状態であれば、休憩ではなく労働時間と考えられます。自由に外出できる休憩とは性質が異なります。現場での待機の実態に応じて、賃金や勤怠の扱いを決めておくことをおすすめします。

労働時間の線引きは、白黒がつきにくい場面がどうしても出てきます。だからこそ、ひとりで抱え込まず、実態に合わせて一緒に整理していくことが近道です。ご不明な点や、ちょっとした疑問があれば、お気軽にご相談ください。どんな些細なことでも、まずはお話をお聞かせいただければと思います。

私たちKT社会保険労務士事務所は、経営者様の隣で一緒に考える伴走者として、細やかに寄り添うサポートを大切にしています。「人を活かして、経営に力を」——そんな会社づくりのお手伝いができれば嬉しいです。

※本記事は一般的な情報の整理です。個別の事案の判断は実態に応じて変わります。正確な取り扱いは、厚生労働省の公式サイト(公式・確認済)や、建設業の働き方改革に関する国土交通省の公式サイト(公式・確認済)もあわせてご確認ください。

田渕 花純

この記事の著者

田渕 花純

Kasumi Tabuchi

KT社会保険労務士事務所 代表/社会保険労務士

客室乗務員として培った「人を見る感度」を強みに、社会保険労務士として建設業・中小企業の労務を支える。トラブルの予兆を見逃さない予防型のサポートと、「できません」で終わらせず代替案を示す姿勢を大切にしている。東京・江東区を拠点に、外国人雇用・労災特別加入・一人親方対応など建設業特有の課題にも対応。

この記事は役に立ちましたか?
もし参考になりましたら、下記のボタンで教えてください。

関連記事