建設業の労働時間|移動時間・残業上限を社労士が整理

「これって労働時間に入るのかな」——建設業の現場では、そんな線引きに迷う場面がよく出てきます。朝の集合、現場までの移動、天候待ち、後片付け。どれも当たり前の日常だからこそ、扱いが曖昧なまま流れがちです。けれど、この小さな曖昧さが、あとで従業員との行き違いを生むこともあります。
この記事では、建設業の労働時間で「よく聞かれる疑問」を、社労士の視点で整理します。取り上げるのは、①現場までの移動時間、②残業(時間外労働)の上限と36協定、③残業代という3つのテーマ。むずかしい条文の言い回しはできるだけほどき、御社の現場に置きかえて読める形にまとめました。責め立てるための話ではありません。経営者の隣で一緒に確認していく、そんな気持ちで進めます。まずは全体像から、順番に見ていきましょう。
INDEX≡目次
- 1建設業の労働時間の基本ルール(1日8時間・週40時間と休憩・休日)
- ►法定労働時間(1日8時間・週40時間)と休憩・休日の原則
- ►所定労働時間と法定労働時間の違い
- ►2024年4月から建設業にも適用された時間外労働の上限規制
- 2現場までの移動時間は労働時間?直行直帰・集合・待機をケース別に整理
- ►自宅から現場への直行直帰は原則「通勤時間」
- ►事業所に集合して資材を積み現場へ向かう時間は「労働時間」になりやすい
- ►現場での待機・朝礼・後片付けの扱い
- 3建設業の残業(時間外労働)の上限と36協定のきほん
- ►36協定と特別条項の関係
- ►月45時間・年360時間の原則と特別条項の上限
- ►災害復旧・復興工事などの適用除外の扱い
- 4「残業代が出ない」は問題?割増賃金の考え方と計算のきほん
- ►時間外・深夜・休日の割増率
- ►固定残業代(みなし残業)で見落としやすいポイント
- ►一人親方・外注さんと「労働者性」の線引き
- 5労働時間の「見える化」を進める3つの選択肢(できることから一緒に)
- ►まずは勤怠の記録方法を「続けられる形」に整える
- ►就業規則と36協定を実態に合わせて見直す
- ►外付けの人事労務として、記録から申請まで伴走する
- 6よくある質問(FAQ)
建設業の労働時間の基本ルール(1日8時間・週40時間と休憩・休日)
まずは労働時間の“ものさし”をそろえておきませんか。ここが定まると、あとの話がぐっと分かりやすくなります。
法定労働時間(1日8時間・週40時間)と休憩・休日の原則
労働基準法では、働く時間の上限として1日8時間・週40時間という原則が定められています。これが法定労働時間です。労働基準法では、労働時間が6時間を超えれば45分以上、8時間を超えれば1時間以上の休憩も必要とされています。休日は週1日、または4週で4日以上が基本の考え方です。
現場の感覚では「そんなの守れないよ」という声もよく伺います。ただ、この原則を知っているかどうかで、あとの残業管理のしやすさは大きく違ってきます。まずは自社の一日の流れを、この“ものさし”に当ててみましょう。
所定労働時間と法定労働時間の違い
似ているようで混同しやすいのが、この二つ。法定労働時間は法律が定める上限で、所定労働時間は会社が就業規則などで決めた勤務時間を指します。たとえば始業から終業まで休憩をはさんで実働8時間なら、所定労働時間は8時間という形です。
なぜ区別が大切かというと、残業代の計算に関わってくるからです。所定を超えても法定の範囲内なら、扱いが変わる場面もあります。言葉の違いを押さえるだけで、賃金まわりの誤解はぐっと減るのではないでしょうか。
2024年4月から建設業にも適用された時間外労働の上限規制
以前の建設業には、時間外労働の上限規制の適用が猶予されていました。ところが厚生労働省の資料によれば、2024年4月から、建設業にもほかの産業と同じ上限規制が適用されています。これにより、36協定の結び方や日々の記録の重みが、以前より格段に増しました。
「知らなかった」では済まない場面も出てきました。とはいえ、いきなり完璧を目指さなくて大丈夫。今の実態を把握するところから、御社のペースで整えていけば十分です。具体的な進め方は、記事の後半でご紹介します。
現場までの移動時間は労働時間?直行直帰・集合・待機をケース別に整理
建設業でいちばん相談が多いのが、この移動時間。集合の仕方ひとつで扱いが分かれるため、場面ごとに細やかに見ていきましょう。
労働時間に含まれにくい
指揮命令下にあるため
※ 集合の有無や指揮命令の実態で判断が変わります。迷う場面は実態に合わせて整理を。
自宅から現場への直行直帰は原則「通勤時間」
自宅から現場へ直接向かい、終われば直接帰る。この直行直帰の移動は、原則として通勤時間にあたり、労働時間には含まれないと考えられています。通勤は、会社の指揮命令のもとにある時間とは言いにくいためです。
現場が日ごとに変わる建設業では、この形が中心という会社も多いはずです。ただし「原則」と書いたのには理由があります。移動の途中に会社の指示による作業が加わると、話が変わってくるのです。次に、その分かれ目を見ていきます。
事業所に集合して資材を積み現場へ向かう時間は「労働時間」になりやすい
一方、いったん事業所や集合場所に集まり、資材を積んだり、道具や人員を乗せて現場へ向かったりする時間。これは労働時間として扱われやすいと考えられます。集合や積み込みが会社の指示で行われ、その場にいることが求められているからです。
建設業の実務家が発信する解説動画でも、この論点はよく取り上げられています。「事業所集合か、直行直帰か」で移動時間の扱いが分かれる。まさに現場のリアルな悩みどころと言えます。御社の集合ルールが今どちらに近いか、一度ふり返ってみてはいかがでしょう。
現場での待機・朝礼・後片付けの扱い
移動と並んで迷いやすいのが、現場での待機や朝礼、後片付けです。会社の指示で参加する朝礼、指示のもとで行う後片付けは、労働時間に含まれると考えるのが自然。天候待ちなどの手待ち時間も、すぐ作業に戻れるよう待機しているなら、休憩ではなく労働時間と捉えられます。
このあたりは「言われてみればうちも曖昧かも」となりやすい部分。小さな変化を見逃さないことが、大きなトラブルの予防につながります。まずは事実を洗い出すだけでも、次の一手が見えてくるはずです。
建設業の残業(時間外労働)の上限と36協定のきほん
2024年からの上限規制で、36協定の結び方がいっそう大切になりました。御社の現場に置きかえて整理していきましょう。
36協定と特別条項の関係
法定労働時間を超えて働いてもらうには、36協定(時間外・休日労働に関する協定)が欠かせません。この協定を結び、労働基準監督署へ届け出ておく形です。協定がないままの残業は、法律上むずかしい部分が出てきます。繁忙期などで通常の上限を超える見込みがあるなら、特別条項という上乗せの取り決めを備えておく形です。
「うちは口約束でやってきた」という現場も見かけます。責める話ではありません。ただ、協定という土台があると、経営者も従業員も安心して働けます。まずは自社に協定があるか、内容が実態に合っているかの確認から始めてみてください。
月45時間・年360時間の原則と特別条項の上限
厚生労働省によると、時間外労働の上限は原則で月45時間・年360時間です。特別条項を結んだ場合でも、上限は残ります。厚生労働省の解説では、年720時間以内、単月100時間未満(休日労働を含む)、複数月平均80時間以内などが示されています。これらは建設業にも2024年4月から適用されました。
数字が並ぶと身構えてしまうもの。大切なのは暗記ではなく、御社の残業が今どのあたりにあるかを“見える”状態にしておくことです。記録さえ整えば、危ないラインの手前で手を打てます。
災害復旧・復興工事などの適用除外の扱い
なお、災害の復旧・復興工事など一部の業務では、上限の一部が適用されない扱いがあります。社会的な必要性が高い緊急の工事に配慮した仕組みです。ただし、無制限に残業してよいという意味ではありません。
現場の実態を語る座談会や体験談の動画でも、長時間労働や多重下請けの負担は繰り返し話題になります。だからこそ、例外にあたる場合でも、健康への配慮と記録は欠かせないと捉えています。判断に迷うときは、工事の性質に照らして一緒に確認しましょう。
「残業代が出ない」は問題?割増賃金の考え方と計算のきほん
「日給だから残業代は関係ない」——この思い込みが、あとの行き違いを生むことがあります。御社を守るための整理として、基本を確認します。
時間外・深夜・休日の割増率
法定労働時間を超えて働いてもらった場合には、割増賃金が必要です。原則の割増率は、下表のとおり定められています。率だけを見ると複雑に感じるもの。ですが考え方はシンプルです。重い負担で働いてもらったぶん、賃金でしっかり報いる。その筋を押さえれば、計算のミスも防ぎやすくなります。
| 区分 | 割増率の目安 | 出典 |
|---|---|---|
| 時間外労働(法定労働時間を超える部分) | 25%以上 | 労働基準法第37条 |
| 月60時間を超える時間外労働 | 50%以上 | 厚生労働省 |
| 深夜労働(22時〜翌5時) | 25%以上(時間外と別に加算) | 労働基準法第37条 |
| 法定休日の労働 | 35%以上 | 厚生労働省 |
固定残業代(みなし残業)で見落としやすいポイント
「固定残業代を払っているから安心」という声もよく伺います。固定残業代(みなし残業)は有効な仕組みですが、何時間分の残業代なのかを明確にしておくことが前提。想定した時間を超えて働いた分には、別途の支払いが必要です。
ここが曖昧なままだと、「払っているつもり」と「もらえていない」の食い違いが起きがち。就業規則や賃金の決め方とセットで整えておくと、双方が納得できる形へ近づきます。
一人親方・外注さんと「労働者性」の線引き
建設業ならではの論点が、一人親方や外注さんの扱いです。契約の名前が「請負」でも、油断はできません。実態として会社の指揮命令のもとで働いているなら、労働者性があると判断される場合があります。そのときは、労働時間や残業代のルールが関わってきます。
「うちは外注だから大丈夫」と決めつけず、実態を見ることが肝心。細かく見ていないと、大きなトラブルにつながりかねない部分だからです。線引きに迷ったら、契約書と実際の働き方の両面から一緒に点検しましょう。
| チェックの視点 | 労働者性が弱い(外注寄り) | 労働者性が強い(労働者寄り) |
|---|---|---|
| 仕事の依頼を断れるか | ○ 断れる | △ 断りにくい |
| 働く時間・場所の拘束 | ○ 自分で決められる | △ 会社が指定・管理 |
| 報酬の性格 | ○ 仕事の完成に対して | △ 働いた時間に対して |
| 道具・材料の負担 | ○ 本人が用意 | △ 会社が用意 |
労働時間の「見える化」を進める3つの選択肢(できることから一緒に)
いきなり全部を完璧にする必要はありません。今のままでは難しい部分も、角度を変えれば無理なく始められます。御社に合う入り口を3つご用意しました。
まずは勤怠の記録方法を「続けられる形」に整える
最初の一歩は、労働時間を記録に残すこと。とはいえ、高価なシステムをすぐ入れる必要はありません。今のやり方で続けられる形から始めるのが、結局いちばん定着します。紙の出面表でも、スマホのアプリでも、まずは移動・待機・残業が見える状態をつくるのが出発点です。
記録が残ると、「なんとなく多い気がする」が「実際にこうだった」へ変わります。事実が見えれば、どこから手をつけるかの判断もしやすくなるでしょう。無理のないところから、一緒に整えていきませんか。
就業規則と36協定を実態に合わせて見直す
次の一歩は、就業規則と36協定を現場の実態に合わせて見直すこと。書式だけ整っていても、実態と合っていなければ意味が薄れます。移動時間の扱い、休憩、固定残業代の定め方など、御社の働き方に沿った内容へ整えていきましょう。
「それは難しいです」で止まらず、「この方法なら進められます」と、別の道を一緒に探す。それが私たちの姿勢です。すでにある国の仕組みを正しく取り入れるだけでも、現場の環境は着実に整っていきます。
外付けの人事労務として、記録から申請まで伴走する
それでも「本業が忙しくて手が回らない」というのが、多くの経営者の本音ではないでしょうか。そんなときは、私たちを外付けの人事労務として使っていただく形があります。記録の仕組みづくりから、就業規則の整備、36協定の届け出まで、社外にいながら内部チームのように伴走します。
士業の「先生」として上から指示するのではなく、同じ目線のパートナーとして関わることを大切にしています。労務まわりを任せていただければ、経営者は本業に集中できる環境が生まれます。まずは御社の現状を、気軽にお聞かせいただくところからで十分です。
当事務所の建設業サポートや就業規則の作成・見直しについても、それぞれのページでご案内しています。あわせてご覧ください。
よくある質問(FAQ)
Q. 建設業の現場までの移動時間は労働時間に含まれますか? 自宅から現場へ直行・直帰する場合は原則として通勤時間で、労働時間には含まれないと考えられます。一方、いったん事業所に集合し、資材の積み込みや指示を受けてから現場へ移動する時間は、労働時間として扱われやすくなります。集合形態や指揮命令の有無で判断が変わるため、迷ったときは実態に合わせてご相談ください。
Q. 建設業の1日の労働時間の上限は何時間ですか? 労働基準法の原則では1日8時間・週40時間が法定労働時間です。これを超えて働いてもらうには36協定の締結が必要で、2024年4月からは建設業にも時間外労働の上限規制が適用されています。
Q. 建設業の残業の上限はどのくらいですか? 厚生労働省によると、原則は月45時間・年360時間で、特別条項を結んだ場合でも上限が定められています。災害復旧・復興工事など一部で例外の扱いがありますが、いずれも36協定の適切な締結・運用が前提になります。
Q. 朝の準備や工具の積み込みの時間は労働時間になりますか? 会社の指示で事業所に集合し、準備や積み込みを行う時間は、労働時間として扱われやすいと考えられます。作業の指示があるか、その場にいることが求められているかが判断のポイントです。曖昧なまま運用していると誤解の元になるため、実態に合わせて整理しておくと安心です。
Q. 天候待ち・材料待ちの手待ち時間は休憩ですか? 手待ち時間は、いつでも作業に戻れるよう待機している状態であれば、休憩ではなく労働時間と考えられます。自由に外出できる休憩とは性質が異なります。現場での待機の実態に応じて、賃金や勤怠の扱いを決めておくことをおすすめします。
労働時間の線引きは、白黒がつきにくい場面がどうしても出てきます。だからこそ、ひとりで抱え込まず、実態に合わせて一緒に整理していくことが近道です。ご不明な点や、ちょっとした疑問があれば、お気軽にご相談ください。どんな些細なことでも、まずはお話をお聞かせいただければと思います。
私たちKT社会保険労務士事務所は、経営者様の隣で一緒に考える伴走者として、細やかに寄り添うサポートを大切にしています。「人を活かして、経営に力を」——そんな会社づくりのお手伝いができれば嬉しいです。
※本記事は一般的な情報の整理です。個別の事案の判断は実態に応じて変わります。正確な取り扱いは、厚生労働省の公式サイト(公式・確認済)や、建設業の働き方改革に関する国土交通省の公式サイト(公式・確認済)もあわせてご確認ください。






