キャリアアップ助成金|正社員化で最大80万円の申請実務

「パートさんや契約社員を正社員にしたいけれど、そんな余裕はうちにはない」——中小企業の経営者様から、そんな声をよく伺います。人を大切にしたい気持ちはあっても、賃金や社会保険の負担を考えると、なかなか一歩を踏み出しにくいものです。
その一歩をあと押しするために用意されているのが、キャリアアップ助成金です。非正規で働く方の正社員化や待遇改善に取り組む会社を、国が金銭面で支える制度です。この記事では、いちばん相談の多い正社員化コースを中心に整理します。取り上げるのは、金額のしくみ、つまずきやすいポイント、令和7年に新しくできたコース、そして申請の進め方です。むずかしい制度の話を、社労士の視点でやさしくほどいていきます。むずかしい制度の話を、御社の実情に置きかえて読める形にまとめました。まずは全体像から、順番に見ていきましょう。
INDEX≡目次
- 1キャリアアップ助成金とは?正社員化コースを中心に全体像を整理
- ►キャリアアップ助成金の目的と対象になる事業主
- ►正社員化・短時間労働者労働時間延長支援などコースの種類
- ►令和8年度の主な変更点(社労士がやさしく整理)
- 2正社員化コースの支給額|基本額と加算のしくみ
- ►有期雇用から正規への転換で受けられる基本額(令和8年度の目安)
- ►賃金の増額や多様な正社員化などで乗る加算
- ►1年度あたりの支給上限(最大1600万円という枠の考え方)
- 3中小企業・建設業がつまずきやすい5つのNGポイント
- ►就業規則・賃金規定に転換制度が定められていない
- ►転換前後の賃金要件(増額の割合)を満たしていない
- ►対象労働者・雇用期間の要件を取り違えている
- ►転換より前に計画届を出していない(申請タイミング)
- ►支給申請に必要な書類(賃金台帳・出勤簿)が整っていない
- 4令和7年7月新設「短時間労働者労働時間延長支援コース」の使いどころ
- ►どんな会社・どんな働き方が対象になりやすいか
- ►建設業・中小企業での活用イメージ
- ►社会保険の加入拡大との関係を整理する
- 5「うちでも使える?」を確かめる進め方(できることから一緒に)
- ►まずは就業規則と賃金規定に転換制度があるかを確認する
- ►転換計画を立てて、転換より前に計画届を出す
- ►申請から受給までを社労士と一緒に進める(伴走)
- 6よくある質問(FAQ)
- ►キャリアアップ助成金は必ずもらえますか?
- ►正社員化コースは1人あたりいくら受けられますか?
- ►就業規則がない小さな会社でも申請できますか?
- ►建設業でも使えますか?
- ►令和7年7月に新しくできたコースはどんなものですか?
- ►転換した後からでも申請できますか?
キャリアアップ助成金とは?正社員化コースを中心に全体像を整理
キャリアアップ助成金とは、非正規雇用で働く方の正社員化や処遇改善に取り組んだ事業主を、国が助成する制度です。対象になるのは、雇用保険の適用事業所で、キャリアアップ管理者を置くなど一定の体制を整えた会社。まずは「どんな会社が、どのコースで使えるのか」をそろえておきませんか。
対象になる事業主(土台の条件)
目的別に分かれる主なコース
労働時間延長支援コース
キャリアアップ助成金の目的と対象になる事業主
この助成金の根っこにあるのは、「非正規で働く方の立場を安定させたい」という考え方です。有期雇用やパートの方を正社員に登用したり、賃金や手当を改善したりする会社を、金銭面で後押しします。
対象になるのは、雇用保険の適用事業所であること、キャリアアップ管理者を配置していること、そしてキャリアアップ計画をあらかじめ作成・提出していることなどが基本の条件です。業種による一律の制限はなく、建設業やスタートアップの会社も、要件を満たせば活用できる対象です。まずは自社が土台の条件に当てはまるか、そこから確かめてみましょう。
正社員化・短時間労働者労働時間延長支援などコースの種類
キャリアアップ助成金は、ひとつの制度ではなく、目的別にいくつかのコースに分かれています。中心となるのが、有期雇用などの方を正規雇用へ転換する正社員化コース。加えて、賃金規定を改定するコースや、社会保険の適用につなげるコースなどが用意されています。
令和7年7月には、パートなどの労働時間を延ばす取り組みを支える「短時間労働者労働時間延長支援コース」も新設されました。実務家の社労士が解説する動画でも、正社員化コースを短時間で整理した解説が公開されており、コースごとに要件と金額が異なる点が繰り返し強調されています。まずは「自社の課題はどのコースに近いか」で見当をつけると、話がぐっと進めやすくなるはずです。
令和8年度の主な変更点(社労士がやさしく整理)
助成金は、年度ごとに金額や要件が見直される点に注意が必要です。令和8年度も、正社員化コースの支給額や加算のしくみに動きがありました。金額が手厚くなる一方で、要件も細かくなる傾向が見られます。
私がご相談を受ける中でも、「去年の情報のまま準備を進めていて、今年の要件と食い違っていた」というケースは少なくありません。だからこそ、着手する前にその年度の最新の案内を確認することが、遠回りに見えて確実な近道です。制度の詳しい要件やコースの全体像は、厚生労働省の公式ページでも確認できます。古い資料だけで判断せず、まずは今年の前提をそろえておきましょう。
正社員化コースの支給額|基本額と加算のしくみ
正社員化コースの支給額は、有期雇用などの方を正規雇用へ転換した場合の基本額に、条件次第で加算が乗るしくみです。令和8年度は、中小企業で1人あたり最大80万円が目安とされています(厚生労働省の案内による)。ここでは金額の考え方を、出典とあわせて確認します。
| 転換の型 | 対象になる方 | 令和8年度の金額の目安(中小企業) | 加算の例 |
|---|---|---|---|
| 有期雇用 → 正規雇用 | 有期契約で働く方 | 1人あたり最大80万円 | 賃金の一定以上の増額 ○ |
| 無期雇用 → 正規雇用 | 無期契約の非正規で働く方 | 有期からの転換より低めの設定 | 多様な正社員化 ○ |
※出典:厚生労働省「キャリアアップ助成金のご案内(令和8年度)」正社員化コース。金額・加算の要件は年度ごとに見直されるため、最新の案内でご確認ください。
有期雇用から正規への転換で受けられる基本額(令和8年度の目安)
正社員化コースの中心は、有期雇用契約の方を正規雇用に転換するパターンです。厚生労働省の令和8年度の案内では、中小企業がこの転換を行った場合、1人あたり最大80万円が目安とされています。無期雇用からの転換など、型によって金額に差が出ます。
ここで大切なのは、金額の大きさよりも「要件を満たして初めて受けられる」という順番です。転換すれば自動的に振り込まれるわけではありません。就業規則への制度の記載、賃金の増額、申請書類の整備——こうした条件がそろって、はじめて受給の可能性が生まれます。数字の魅力に引っぱられすぎず、土台の要件から丁寧に見ていきましょう。
※出典:厚生労働省「キャリアアップ助成金のご案内(令和8年度)」正社員化コース
賃金の増額や多様な正社員化などで乗る加算
基本額に加えて、一定の条件を満たすと加算が受けられる場合があります。たとえば、転換の前後で賃金を一定の割合以上引き上げた場合や、勤務地・職務を限定した「多様な正社員」へ転換した場合などです。
社労士が解説する動画でも、条件しだいで金額が大きく変わる点を整理した解説が公開されています。ただし加算の要件は年度で細かく変わるため、「加算がつく前提」で計画を組むのは避けたいところ。まずは基本の要件を確実に満たし、加算は取れれば上乗せ、という順序で考えると安全です。なお、賃金の引上げそのものを支援する制度としては業務改善助成金をわかりやすく解説した記事もありますので、あわせて検討いただけます。
1年度あたりの支給上限(最大1600万円という枠の考え方)
正社員化コースには、1年度あたりに申請できる人数の上限があります。複数名を転換して活用すると、年間ではまとまった額になり得ます。解説動画などでは年間で最大1,600万円規模という試算も見かけますが、これは上限まで複数名を転換した場合の理論上の数字です(1人あたりの基本額と年度の上限人数から算出。実際の支給は厚生労働省の案内による要件審査を経ます)。
現実には、御社の人員構成や転換のペースに応じて、活用できる規模は変わってきます。「最大でいくら」よりも、「うちの場合は誰を、いつ転換できるか」から逆算するほうが、地に足のついた計画に近づけます。無理に人数を合わせにいくのではなく、経営の実態に沿って考えていきましょう。
中小企業・建設業がつまずきやすい5つのNGポイント
助成金でいちばんもったいないのが、要件を満たしていたはずなのに、手続きの順番や書類の不備で対象外になってしまうケースです。悪意がなくても起こり得ます。ここでは、現場が忙しい建設業や少人数の中小企業でとくに起きやすい点を、防ぐ視点で整理します。
就業規則・賃金規定に転換制度が定められていない
正社員化コースでは、正社員への転換制度を就業規則や賃金規定にあらかじめ定めておくことが前提です。ここが空欄のまま転換だけ先に進めてしまうと、要件を満たさず対象外になりかねません。
「就業規則を作ったのはずいぶん前で、転換のことは書いていない」という会社は少なくありません。悪意があるわけではなく、制度を知らなかっただけ。だからこそ、着手前に規定を見直すだけで防げるつまずきです。まずは自社の規定に転換のルールが書かれているか、確認するところから始めましょう。就業規則そのものの整え方は、中小企業の就業規則づくりを解説した記事もあわせてご覧ください。
転換前後の賃金要件(増額の割合)を満たしていない
正社員化コースでは、転換の前後で賃金を一定以上引き上げることが求められます。「正社員にしたのに、基本給はほとんど変えていなかった」という場合、要件を満たさず対象外と判断されることもあるのです。
数字の要件は年度で見直されるため、その年の案内で最新の割合を確認することが欠かせません。転換のタイミングと賃金改定を、あらかじめ設計しておくと安心です。感覚で決めず、要件から逆算して賃金を組み立てる。これだけで、防げるつまずきをぐっと減らせます。
対象労働者・雇用期間の要件を取り違えている
「誰でも対象になる」わけではない点も、見落としやすいところです。転換前の雇用期間や、過去に正社員だった経歴の有無など、対象労働者にはいくつかの条件があります。ここを取り違えると、申請段階でつまずきます。
社労士が発信する動画でも、悪意がなくても対象外になり得るNG事例が具体的に紹介されています。「これくらい大丈夫だろう」で進めず、対象者の要件を一人ひとり確かめる。少し手間でも、この確認こそ受給への近道です。
転換より前に計画届を出していない(申請タイミング)
もっとも多いつまずきが、この申請タイミングです。多くのコースでは、実際に転換する前に、キャリアアップ計画届を提出しておく必要があります。転換を済ませてから「さあ申請しよう」では、順番が逆になってしまいます。
「先に人を正社員にしてあげたのに、書類が後手に回って対象外」というのは、あまりに惜しい話です。転換を考え始めた段階で、まず計画届。この順番さえ押さえておけば、多くのつまずきは避けられます。迷ったら、動く前にご相談いただくのがおすすめです。
支給申請に必要な書類(賃金台帳・出勤簿)が整っていない
計画届を出し、転換を済ませたあとにも関門があります。支給申請には、転換後の賃金台帳や出勤簿など、実態を示す書類が必要です。ここが日々整っていないと、申請の段階で立ち止まってしまいます。
現場が忙しいと、勤怠や賃金の記録はどうしても後回しになりがちです。ただ、これらは助成金のためだけでなく、労務管理の土台でもあります。日頃から記録を「続けられる形」に整えておくことが、いざ申請というときの余裕につながります。
令和7年7月新設「短時間労働者労働時間延長支援コース」の使いどころ
令和7年7月に新設されたのが、短時間労働者の労働時間を延ばす取り組みを支援するコースです。パートの方の働く時間を増やし、社会保険の適用につなげたい会社にとって、選択肢のひとつと言えます。どんな場面で活きるのかを見ていきましょう。
どんな会社・どんな働き方が対象になりやすいか
このコースは、パートやアルバイトなど短時間で働く方の労働時間を延長し、あわせて処遇を改善する取り組みを支援するものです。「もっと働きたい」という本人の希望と、「戦力として長く関わってほしい」という会社の思いが重なる場面で活きてきます。
実務家の社労士による新設コースの解説動画でも、令和7年7月の新設という点が取り上げられています。新しいコースは情報が出そろうまで判断が難しいものです。活用を考える際は、その時点の最新の案内で要件を確認しておきましょう。 ※出典:厚生労働省 キャリアアップ助成金 短時間労働者労働時間延長支援コース(令和7年7月新設)
建設業・中小企業での活用イメージ
たとえば、事務や軽作業を短時間で担ってくれているパートの方に、もう少し長く働いてもらいたい。そんな場面で、労働時間の延長とあわせてこのコースを検討できます。人手が限られる中小企業では、既存のメンバーの時間を増やせることは大きな意味を持ちます。
建設業でも、現場周りの事務や資材管理などで短時間勤務の方が活躍している会社は多いはずです。本人の希望を確かめながら、無理のない範囲で時間を延ばしていく。人を活かして、経営に力を——という発想と、自然につながるコースだと捉えています。建設業の労働時間の基本は、建設業の労働時間を整理した記事でも触れていますので、あわせてご確認ください。
社会保険の加入拡大との関係を整理する
労働時間を延ばすと、社会保険の加入対象に入ってくる場合があります。会社の負担は増えますが、その分、働く方の安心を支える一歩になるはずです。このコースは、そうした一歩をあと押しする性格も持っています。
ただし、時間延長と社会保険の適用は、本人の生活設計にも関わる話です。「扶養の範囲で働きたい」という希望もあれば、「しっかり働いて社会保険に入りたい」という希望もあります。会社の都合だけで進めず、一人ひとりの希望を聞きながら、丁寧に整理していくことが大切です。
「うちでも使える?」を確かめる進め方(できることから一緒に)
ここまで読んで「気になるけれど、うちの体制で申請まで進められるだろうか」と感じた方もいらっしゃるかもしれません。いきなり完璧を目指さなくて大丈夫です。今の状態から、御社のペースで確かめられる順番でご紹介します。
まずは就業規則と賃金規定に転換制度があるかを確認する
最初の一歩は、就業規則や賃金規定に正社員への転換制度が書かれているかの確認です。ここが整っていれば、申請の土台はできています。書かれていない場合でも、規定を整えるところから順に進めれば、活用を目指せます。
「規定を直すなんて大ごとでは」と身構えなくて大丈夫です。転換のルールを明文化するのは、助成金のためだけでなく、働く方に将来像を示すことにもつながる取り組みです。まずは現状の規定を開いて、転換の記載があるかを見てみましょう。そこが確かな出発点です。
転換計画を立てて、転換より前に計画届を出す
次に、いつ・誰を・どう転換するかの計画を立て、転換より前に計画届を提出します。この順番が、助成金では何より大切です。計画を先に、実行はその後。ここさえ外さなければ、大きなつまずきは避けられます。
計画といっても、精緻な書類を最初から完成させる必要はありません。まずは大まかな見取り図を描き、要件と照らし合わせながら整えていけば十分です。当事務所で伴走したケースでも、最初はざっくりした計画から始めて、対話しながら形にしていった例が多くあります(あくまで一例です)。一緒に、無理のないところから組み立てていきましょう。
申請から受給までを社労士と一緒に進める(伴走)
助成金は、申請して終わりではありません。転換後の賃金台帳や出勤簿の整備、支給申請のタイミングなど、受給までにいくつかの段階があります。ここを一人で抱えると、本業の時間が削られてしまいます。
直接そのままの形では、忙しい経営者様がすべての手続きを追いきるのは難しい場面もあります。ただ、こうした事務を外付けの人事労務として社労士が引き受ければ、御社は本業に集中できます。書類の準備から申請、その後のフォローまで、隣で一緒に進めるパートナーとして関わらせていただきます。まずは、今の状況をお聞かせください。
よくある質問(FAQ)
キャリアアップ助成金は必ずもらえますか?
支給が約束された制度ではありません。就業規則の整備や賃金要件、申請の順番など複数の要件を満たした場合に、受給できる可能性がある助成金です。まずは自社が要件に当てはまるかの確認から始めるのがおすすめです。
正社員化コースは1人あたりいくら受けられますか?
有期雇用から正規雇用への転換が基本の対象で、令和8年度は中小企業で1人あたり最大80万円が目安とされています(厚生労働省の案内による)。賃金の増額などの条件で金額が変わるため、最新のパンフレットで確認するのが確実です。
就業規則がない小さな会社でも申請できますか?
正社員化コースでは、転換制度を就業規則や賃金規定に定めておくことが前提になります。まだ整っていない場合でも、規定の整備から順に進めれば申請を目指せますので、そこから一緒に確認していきましょう。
建設業でも使えますか?
業種による制限で一律に対象外になるものではなく、要件を満たせば建設業の会社も活用できます。現場中心で書類整備が後回しになりがちな点だけ、早めに手当てしておくと安心です。
令和7年7月に新しくできたコースはどんなものですか?
短時間労働者労働時間延長支援コースが新設されました。パートの方の労働時間を延ばし、社会保険の適用につなげる取り組みを支援するもので、時間延長を検討している会社の選択肢になります。
転換した後からでも申請できますか?
多くのコースでは、転換より前に計画届を出しておく必要があります。順番を間違えると対象外になることがあるため、転換を考え始めた段階で早めにご相談いただくのがおすすめです。
ご不明な点や、ちょっとした疑問があれば、お気軽にご相談ください。どんな些細なことでも、まずはお話をお聞かせいただければと思います。
私たちKT社会保険労務士事務所は、経営者様の隣で一緒に考える伴走者として、細やかに寄り添うサポートを大切にしています。人を活かして、経営に力を。その一歩に、キャリアアップ助成金を役立てていただけたらと願っています。








